業績向上のための中小企業対応型人事・賃金制度とは


『業績向上のための人事・賃金制度』という謳い文句は世間でよく見られる文言です。 しかし、実際に業績向上を実現するための、中小企業対応型の人事・賃金制度はどのようなものであったらよいのでしょうか。

●人事・賃金制度を構築する目的は・・・

中小企業様の人事・賃金制度構築をしてきた経験から、中小企業において人事・賃金制度をうまく活用するために、必ず押さえるべきは、次の4つのポイントだ!と考えています。

★4つのポイントを押さえた社会保険労務士たちばな事務所の人事・賃金制度とは

中小企業の人事・賃金制度にはずせない4つのポイントとは

(1)現状の課題抽出が、制度構築のスタートである

◆現状の把握と課題抽出なくして、制度は構築できません。自社の短所と長所を明らかにして、制度に入れ込むことが大切です。

◆くりかえしますが、人事・賃金制度を構築・修正する一番の目的は、自社の業績を向上させることです。しかし、もし自社の現状がわかっていなければ、自社がどのように業績を向上させていけばよいのかわかるはずもありません。もし、現状把握せずに、こうだと決めたとしたら、それは推測や他社の真似になってしまいがちです。自社が発展するために、妨げになっているボトルネックや短所は何で、何を伸ばせばよいのかをまず明確にする必要があります。特に中小企業では、長所を伸ばすことがカギとなりますので、それが何かを自社でわかっておくことが必要です。

◆次に、業績を向上させるための課題に対して、どんな成果・能力・役割・行動・マインドがあればよいかを考えて明らかにします。そして、これらの課題解決のために成果を出した従業員・役割を果たした従業員、能力をつけて発揮した従業員・行動をした従業員・マインドを持って職務に当った従業員・・・を、評価することになります。

課題解決を具体的に人事・賃金制度に落とし込むのは、等級基準の内容と(役割基準書・職能基準書・職務基準書・職能要件書)と、評価項目(内容)となるでしょう。


(2)賃金は、『経費』であり、従業員の『収入』でもある

◆「がんばった人に報いる制度」を作りたいと、よく言われます。確かにその通りですが、この言葉が表す意味については、少し慎重にならなければなりません。「がんばった人に報いる制度」を、「従業員のやる気を出せば皆が評価され、賃金がどんどん上がるように設定された制度」としてしまう訳にはいかないからです。賃金は、『人件費』という経費、しかも固定的な経費なのです。

◆賃金が『人件費』の配布という側面を持っていることを考えれば、「従業員のやる気を出せば皆が評価され、賃金がどんどん上がるように設定された制度」では、簡単に運用していけないことは明らかです。財務状態が安定しているとは言えない中小企業には、特にそうでしょう。

◆つまり、皆がやる気を出してがんばっていても、現在の不況の影響などにより会社の利益が少なければ(または赤字なら)、賃金を”どんどん”上げることはできません。賞与が払えない場合もあります。つまり賃金=人件費=売上から控除される固定的な経費という点は、人事・賃金制度を構築する上で絶対に外せないポイントです。

◆例えば、人事制度変更に伴い、給与額を大幅に引き上げるような設計や、昇給額が大企業並みに設定された賃金表がもし出来上がってしまっていたとしたら、これは、大抵の中小企業では、次年度から運用できなくなります。

◆しかし、一方、経費である賃金は、減価償却費や材料費とは異なり、従業員にとっては、生活を支える大事な『収入』です。

◆このいわば当たり前のことが、賃金を決定することをより難しくさせてしまうのです。すなわち、どんなに経費を削減しようとしても、従業員の生活を脅かすような賃金額や、そもそもベース額が低い中小企業にあってはあまりにも不安定な支払い方法だったとすれば、結局従業員の退職を促し、企業活動を停滞させます。

◆さらに言えば、心を持った経営資源である“ヒト”の『収入』として支払われているのです。材料であれば、品質や納期を勘案して最適な業者に発注します。そして、その材料自身が何か主張することはありませんが、”ヒト”に対して、賃金が不公平で納得のいかない状態で支払われたりすれば、経営活動を実行する”ヒト”は、やる気を失い経済活動に影響がでてしまうことになるのです。

これらを勘案し、適正人件費を考えた賃金制度と、納得度を少しでも上げる制度=その企業に応じた評価制度が必要になってくると言えます。


(3)制度は、構築よりも定着させることに尽力する

◆人事制度や賃金制度という仕組みをきちんと作ってしまえば、従業員がやる気になって業績が向上すると思われる経営者の方も多いようです。

◆しかし、残念ながらそうはうまくいきません。一見、非の打ち所のないような制度を作った場合であっても、それが従業員の皆さんに理解され、日々の企業活動に活かされなければ、以前と何も変わりません。

◆では、定着のためには何が必要なのでしょうか。

  • ①会議や朝礼、勉強会などの機会を利用して、何度も従業員に説明をする
  • ②制度に”仕掛け”を取り込む

◆①の会議や朝礼、勉強会などの機会を利用して、何度も従業員に説明をすることも必要です。制度は作った側は、わかって当然のことも、適用される側の従業員には、わからないことだらけです。何がわからないかさえわからない位でしょう。ですから、根気強く、説明することが定着のための第一歩となります。

◆例えば、企業にとって望ましい行動基準を等級基準書に入れ込むということをやりますが、この等級基準書を作成しただけでは残念ながら、従業員の行動は変わりません。その行動が何故望まれるのか、より具体的にはどんなことを指すのかを、いろいろな機会に説明する、より良いのは従業員自身に考えてもらうことが大事です。その他、例えば評価制度には、その導入当初にかなりの反発を受けるケースが多いです。そのために、評価する側もされる側も、評価とは一体何なのかを、学んでいく必要があると考えます。


◆②の制度に仕掛けを取り込むとは、人事制度自体に直接的に取り込むものであっても、付随したものでもよいのですが、肝心なことは、多少の遊び心のある”仕掛け”を作るということです。こういったことは、中小企業ほどやりやすいはずです。実行して、制度という”なんだか堅苦しいもの”から、”日々の仕事に直結したもの”という感覚で捉えてもらえるようにすることが大事でしょう。

◆例えば、実際に、次のような”仕掛け”が効果を発揮しています。

  • ●改善提案制度を設けて、評価制度と連動させる。
  • ●接客業において、評価項目に、お客様からお礼の言葉を頂いた回数を取り入れる。
  • ●他の従業員に感謝した気持ちを表す「ありがとうカード」を出して、発表し、他人の役に立つことをしたか?というような項目で、評価にも一部組み入れる。
  • ●評価の結果、一般従業員やパートであっても、その職階で優秀だった者には、社長自ら、メールや手紙で直接本人を褒め称える。
  • ●管理職者にはコーチングやコミュニケーションの手法を学ばせ、日ごろの部下指導やフィードバック面接に活かしてもらう。

このように、人事・賃金制度に直接的に又は付随的に取り入れる仕掛けは、どちらかというと「かけるお金はできるだけ少ない」か「非金銭的報酬として報いることのできる」仕掛け がよいのです。何故なら、簡単にすぐに実行できるからです。

◆しかし、これら①②よりももっと大事なことがあるのです。

・・・それは、「経営者が、制度の運用に本気であることを常日頃から従業員に見せる」ことです。橘は、実際に目の当たりにしてきました。コンサルタントや総務部や人事部に任せっきりの企業と、経営者自らが制度の構築に参加し人事考課訓練・目標管理研修などに出席される企業とでは、全く従業員への浸透度が違うことを。

◆人事・賃金制度を構築運用する最大の目的は、業績向上を目指すことであると最初に述べました。であれば、当然、経営者が業績向上のツールとして本気で取り組み、またその姿を見せる必要があります。人員の少ない中小企業なら、いっそう、制度の定着と浸透は、何より経営者の本気度にかかっていると言っても過言ではないでしょう。


(4)人材育成なくして、人事制度は活かされない

◆課題抽出した上で、課題解決を人事制度に盛り込み、人件費に配慮した賃金制度を作り、制度の定着化を図る工夫をしても、もうひとつ、欠かせないことがあります。

◆『人材育成』です。何より業績向上のためには、従業員の皆さんがレベルアップすることが不可欠です。「人事・賃金制度をうまく構築・運用することで、従業員がやる気を出して自発的に育ってくれるのではないか。」経営者としては、そのように思いたいところですが、残念ながらこれもそううまくはいきません。

◆経営者は、自分で会社を興したような方、自ら大勢の従業員を率いて従業員の生活を担保するだけの業績をあげているような方です。従って、そもそもモチベーションも高く、仕事に対しての工夫や勉強の度合いや人付き合いの技術などは、秀でているのです。秀でているから経営者になることができたのです。

◆そのレベルから従業員を見ると、「何故こんなことが出来ないのだ?」とか、「何故、自ら学んで取得しないのだろう?」、「何故このように経営を無視した考え方をするのだろう?」等など、いろいろと思うところがあるでしょう。

◆しかし、経営者と雇われている側の従業員とは、まずモチベーションも仕事のやり方も経営に対する考え方は当然違います。これは経営者に限らず、管理職になったような優秀な方も同様に感じられると思います。

◆だから、育成するしかないのです。かなり優秀な人であっても、やはりなんらかの機会やアドバイスを与えられて、ステップアップしていくものです。やる気があっても、知識の技能ついては、最初は誰かから教えて貰って会得するものですし、また、その企業でのやり方や考え方などは、学ばなければ身に付くはずもありません。

◆さらにいえば、管理職者についても、技能は優れていてもマネジメントとはどうしてよいかは、初めて経験することであれば、わからないのも当然ですね。これも管理職の役割は何か?どうしていけばいいのか?などを育成する必要があるでしょう。

◆大企業のように育成や教育に割く時間やお金はないと思われるかもしれません。しかし、周囲に教えてくれる先輩、アドバイスをくれる同僚、参考にできる上司等の絶対数が、大企業に比すれば当然少ない中小企業だからこそ、育成が大事なのです。

人事・賃金制度を構築したならば、 「企業に望ましい基準を目指して育成⇒評価制度で評価⇒賃金制度で処遇に反映⇒さらに育成」 というサイクルを繰り返すことが必須だと考えます。


★4つのポイントを押さえた社会保険労務士たちばな事務所の人事・賃金制度とは