問題社員への対策

問題社員についてのご相談は大変多いです。その社員のみならず、周囲への影響が大変大きいことがより”問題”ですので、早めに対策を練っておく必要があります。


???こんな社員がいたらどうしますか???

(1)無断遅刻・欠勤が多い社員
(2)飲酒運転で免許を取り消された社員
(3)業務中、私用メールを頻繁にする社員
(4)社内恋愛で会社に迷惑をかける社員
(5)始末書の提出を拒む社員
(6)有給休暇の買い上げを要求する社員
(7)有給休暇を、前日夕方に申し出てくる社員
(8)協調できない社員
(9)だらだら仕事をして残業代稼ぎをする社員
(10)残業を拒否する社員
(11)自分勝手な離職理由の変更を要求してくる社員

◆無断遅刻・欠勤が多い社員◆

Q1:ある社員が、無断で遅刻したり、欠勤したりするので困っています。注意をするとしばらくはよくなるのですが、気がつくとまた遅刻や欠勤をしています。このような社員に対しては、どのように対応したらよいのでしょうか。また、遅刻程度でも解雇をすることが許されるのでしょうか。

A1:無断で遅刻したり欠勤したりということは、労働契約上の労働者の義務を履行していないのですから、”債務不履行である”と認識を明確にしましょう。そして、それを社員にしっかりと理解してもらっておくことが大事です。 それでもこの質問例のような社員がいれば、以下のように対応するこります。

  1. (1) まずは、無断遅刻・欠勤の理由を確認します。緊急の用件が入って連絡を取る暇がなかったなどのやむを得ない理由があるかもしれないからです。
  2. (2)会社としてのルールがあいまいであれば、遅刻・欠勤に関するルールを定めること。 ルールがあるのに遵守されていないならば、実効性を確保するための手段を策定してください。
  3. (3)懲戒処分をする前に、無断遅刻・欠勤の客観的事実を証明できる証拠を確認してください。出勤簿などの記録、タイムカードの記録、直属の上司の報告書などの資料が有効です。
  4. (4)就業規則に基づく懲戒処分は、口頭注意、始末書の提出、文書による注意などに始まり、減給、出勤停止などの段階を経て、それでも改善されない場合に解雇とするべきです。

判例でも、指導を続けても改善が見られず、雇用を維持することが誠実に勤務する他の従業員の不満を招き、ひいては適正な経営秩序が保てなくなるおそれがあるとして解雇は有効とされたものもあります(東京海上火災保険事件・東京地判 平成12年7月28日)。

 
◆飲酒運転で免許を取り消された社員◆

Q2:当社の社員が業務終了後の飲み会で酒を飲んだにもかかわらず自家用車で帰宅し、その途中で事故を起こし、免許取消処分となりました。その社員は営業を担当しており、営業中での外回りなしには今の業務をほとんど行えません。この場合、どのように対処すればよいのでしょうか?

A2:運送会社やタクシー会社にドライバーとして勤務する社員のケースで、業務上必要不可欠な免許や資格が取り消されてしまった場合には、採用の際に結ぶ雇用契約に基づいた労務の提供ができなくなるわけですから、職種限定採用であれば解雇処分もやむをえないでしょう。また、仮に職種限定採用でない場合であれば、配置転換をすることで、その免許や資格がなくてもできる仕事に就かせることも考えられます。

この事例のような営業会社では、事故を起こした社員が会社にとって有望な社員である場合などは、免許を再取得するまで他の職種に就かせたりすることが多いようです。さらには、以前と同じように外回り営業はさせるものの、再取得までの間は、公共交通機関やタクシー、または自転車を使用させることにより、今までと同じ業務に就かせた会社もありました。

なお免許を取り消された社員が携わっていた業務とその取り消された免許に全く関連性がない場合には、業務に支障がないわけですから解雇は不当となります。あくまで業務との関連性が重要なのです。

 
◆業務中、私用メールを頻繁にする社員◆

Q3:当社は業務上の必要性から全社員にメールアドレスを付与しています。先日、ある社員がこのメールアドレスを利用して、頻繁に私用メールをしていたことが発覚しました。この場合、何らかの処分は可能でしょうか?

A3:私用メールに関する問題については、「容認主義」と「否定主義」に分かれます。どちらの意見を採用するかは会社の自由です。法律的に違法・合法と決めつける問題ではありませんので、会社の方針や雰囲気、セキュリティーなどを総合的に勘案して、どちらの道を選択するべきか検討するのがよいでしょう。

(1)容認主義の場合・・・「私用メールのやり取りで得られる人脈やアイデアを積極的に仕事に活かせばいいではないか」とする容認主義を方針としている会社の場合、先の事例の社員に対して「私用メールをした」という点についての処分はできないことになります。しかし、「行き過ぎた私用メール」によって職場の風紀が著しく乱れたり、仕事が遅々として進まない原因となったり、犯罪行為に利用したというような主となる処分対象行為が存在する場合には、それ相当の懲戒処分にすることは可能となります。

(2)否定主義の場合・・・「業務中に私用メールをするとはけしからん。断固処分されるべきである」とする否定主義を方針としている会社の場合、「私用メールをした」という事実に対して処分することは可能です。また先に述べたように、これが「行き過ぎた私用メール」であれば、その処分についてはより重くなることが妥当でしょう。ただし、仮に私用メールをほんの数回行った程度で最も重い懲戒解雇とすることは認められないでしょう。否定主義に立つ管理者の「厳しく対応したい」という感情もよく理解できますが、まずは、始末書を取って譴責処分を行い、その後改まらない場合には減給の制裁や降格などの処分を検討しましょう。「それ相当の処分」を「段階を踏んでいこう」ことが大切です。

容認主義をとるにしても、否定主義をとるにしても、これが会社の意思として統一されていなければ、根拠となる基準がないわけですから処分を行うことができません。会社の姿勢を表す方法としては、その方針を就業規則に盛り込んだり、別規定として制定する方法が労働法的に最も効果的です。「否定主義」を採る場合は、社員に対して「なぜ私用メールをしてはいけないのか」という根拠を示す必要もあります。例えば、「勤務時間中は仕事をすること」「社会常識として当然である」「他の社員に悪影響を及ぼす」「セキュリティーの問題」「ウィルスが送られてきたときの責任をどう取るのか」、これらのことを根拠としてきちんと説明しましょう。

 
◆社内恋愛で会社に迷惑をかける社員◆

Q4:当社の男性社員(既婚)の中に、同じ部署の女性社員と不倫関係であるとの噂が社内に流れてる者がいます。このままでは取引先にまでよからぬ噂が広まるのではないかと心配です。会社の社会的なイメージが悪くなる恐れがある以上、この両者を在籍させておくことはリスクが大きいので、解雇することはできないでしょうか?

A4:恋愛は完全に私的行為であるため、その関係に会社がとやかく口を挟むことはできません。ましてや何らかの処分を下すことは許されません。現実は、不倫などが明らかになると、降格処分としたり、退職を促すような働きかけをする会社もあるようですが、私的行為であることには変わりはないので、そのこと自体を理由として両者を解雇とすることは、許されません。

ただし、社内恋愛が原因で、例えば「仕事が進まない」「周囲の士気に影響を与えるほどベタベタする」といった業務上での実害が生じた場合には、その実害については、勿論のこと、注意や処分を行うことはできます。とはいえ、仮に処分を下すとしても、「社内恋愛や社内不倫は絶対に許せない」といった主観による処分は許されないことは当然です。公正で妥当なものになるよう心掛けなくてはなりません。配置転換という手段をとるケースもよく見受けられますが、社内恋愛や社内不倫が、ただちに配置転換の理由にはなりません。よほどの悪影響を職場ににおよぼさない限り、業務上必要な手段とは言い難いからです。しかし、両者の関係がうまくいっているときならば目立った影響がなくても、一旦その関係が崩壊してしまった後では円滑な業務が進まないことも多々あります。特に同じ部署同士の恋愛であればなおさらでしょう。従って、円滑な業務が進まないということは、会社にとっては損害となりますので、労務管理上からもこの場合は配置転換もやむなしと考えられます。

結局、「社内恋愛(例え不倫であっても)をする社員」が問題社員なのでなく、「社内恋愛が原因で会社に迷惑をかける社員」が問題社員なのです。

よって、この事例のような不倫関係も含め、社内恋愛それ自体に関しては一切の規制を設けずに、本人たちの良識に任せておかざるを得ません。これは人間の感情に係る問題ですので、会社側としてはそれ自体をコントロールすることはできないのです。会社としては、実害が出た時点で働きかけるのだというスタンスをとることが大切です。

 
◆始末書の提出を拒む社員◆

Q5:当社に、頻繁に遅刻する社員がおり、他の社員への示しもつかないことから、始末書の提出を要求したのですが、「出す義務はない」といって提出しません。このような反抗的な態度は法的に許されるのでしょうか?

A5:法律上、始末書の提出に関しては全く決められておりません。従って、何か会社にとって不利益となる行為を行った場合に、必ず取らなければならないというも のではありません。始末書を取るかどうかは完全に使用者の裁量に委ねられているのです。しかしながら、就業規則に始末書に関する規定がない場合や、そもそ も就業規則がない会社などでは、始末書の提出を義務付けすることはできません。ましてや、このような会社において、始末書の不提出を理由に解雇することは 許されません。

では、就業規則にその旨が明記されていれば、始末書の提出を義務付けることができるのかというと、一概ににそうともいえないのです。可能とする判例、不可 能とする判例、それぞれあって、議論されている部分ですので、実際の運用には注意が必要となります。始末書の持つ「謝罪」という行為には、そもそも個人の 考え方の部分であり、個人の自由意志が尊重されるべきであるという法理念からも、謝罪を強制することはできないという解釈があるのです。

よって、「謝罪」的意味が含まれる始末書について、提出を義務付けることは厳しいといえます。ただし、「報告」的意味のみで構成される始末書であれば、個 人の意思を強制することはありませんので、就業規則に明記してあるという前提のうえで提出を義務付けることは可能であると考えられています。

始末書を取りたいと思われる事柄が生じた際には、本人に「始末書を提出するように」と伝えましょう。この要請自体は法律に抵触しません。もし本人が会社の 要請に応じて承諾した場合には、本人が合意した結果ですので、違法行為とはなりません。本人が拒否した場合には、始末書不提出を理由に別の懲戒処分を行っ たりすることは、法律に抵触する可能性が高いので避けたほうがよいです。この場合は、なぜ拒否するのかを聞いたうえで、それを記録として残しておく必要が あります。こうしておいて、次の人事評価会議で協議対象にするなり、昇進昇格会議で協議対象にすることは可能だと考えられています。

始末書の提出を拒否する社員との間で一旦は問題が解決したとしても、この案件に関して再度トラブルとなるケースもありますし、その人間が後日また別の問題 をひきおこす可能性もあります。その際に、懲戒処分を科すためには、客観的な証拠があれば、会社有利で事を進めることができます。したがって、何らかの証 拠を残しておきたい場合には、就業規則に明記することにより「報告書」の提出を要求することで可能となります。例えば、この事例のような遅刻が多いという ことであれば「遅刻届」などの態様でもよいでしょう。これらの報告書であっても提出しない場合には、会社への”報告義務違反=債務不履行”と解されますの で、懲戒規定に基づき報告書の不提出を理由に別の懲戒処分を科すことも可能です。

 
◆有給休暇の買い上げを要求する社員◆

Q6: 当社では、社員に法定の有給休暇を与えているのですが、この度、権利発生から2年経過するにあたって未消化分の有給休暇を買い上げてくれとの要求が社員からありました。この場合、法的には支払わなければならないのでしょうか?

A6:本来はすべての有給休暇を消化することが望ましい姿であるのかもしれません。しかし現実問題としては、自分の仕事の進み具合や自分が休むことによってかかる会社への迷惑などを考えて、好き勝手に有給休暇を取ることをせず、結果として何日分かの権利を時効によって消滅させてしまう例が多いようです。従業員側の視点から考えた場合、「や業務量は会社のことを考えて自分の有給休暇を使わなっかたのだから、その使わなかった有給休暇の分に相当する金額を支払ってくれ」と会社に要求する従業員が出てきます。つまり、有給休暇を消化できない場合に、このような要求が起こりうるわけです。有給休暇の買い上げとは、使用者が従業員の有給休暇を取得する権利に対して、金銭を支払って買い取ることを意味します。その買い上げのパターンは、次の2つがあります。

  (1)時効になる前の有給休暇について買い上げる
  (2)時効になった有給休暇について買い上げる

(2)の場合は、すでに時効となっている部分ですので、もはや法律が感知しているとは言えず、会社側がどのように扱っても構わないともいえます。つまり、時効後の有給休暇については「法律を超える部分」なので、別段買い上げても差し支えないことになるのです。しかしながら、(1)のように、時効になる前の有給休暇を買い上げることは、従業員の有給休暇の取得を妨げることになり、法の趣旨に反します。

従って、従業員から有給休暇の買い上げについては何の要求も出ていないのに、貴社側が気を利かしてこのような取り扱いをしてしまうことは、一見素晴らしいようにも思えるのですが、法制度から見ればあまり勧められるものではありません。反対に、従業員側から一方的な買い上げの要求があった場合、会社側が有給休暇を認めてこなかった、あるいは時期を変更してくれと要求し続けてきたなどの事情もなく、ただ単純に従業員が取らなっかただけならば、会社側は当然にその要求を拒否することができます。質問の事例はこのパターンに当てはまりますので拒否しても構いません。退職時は除きますが、会社側として必ず守らなければならない姿勢として、「有給休暇の買い上げはしない」ということが挙げられます。もし有給休暇の買い上げをしてしまうと法律違反に問われるのは勿論のこと、従業員が自分たちの権利を誤解してしまうという弊害が生じる恐れがあるからです。つまり、会社としては「従業員思いの会社だと思われたい」がために行った施策が、従業員には「買い上げが当たり前」と認識され、結果として権利ばかりを主張する社員の増加につなっがてしまいます。

 
◆有給休暇を、前日夕方に申し出てくる社員◆

Q7: 前日夕方になって、「明日、一日休暇を取りたいと思いますので、よろしくお願いします」社員が申し出てきました。会社としても、当日は、就業終了時間近くで対応することができませんでした。この場合、年次有給休暇を認めないことはできるでしょうか?

A7:労働者に認められている年次有給休暇の権利は、法律上当然に労働者に生じる権利であり、年次有給休暇の成立要件として使用者の承認はいりません。一方、使用者側には、「事業の正常な運営を妨げる場合」(労基法39条4項但書)には、”時季変更権”を行使することが認められています。すなわち、休暇取得自体を拒否することはできませんが、労働者が指定した日を他の日に変更する権利があるということです。

中小企業のように少人数で業務配分している状況のもとでは、突然の休暇取得が業務遂行に対する影響も大きいでしょう。このように圧倒的に労働者に強い権利である年次有給休暇取得に対しては、少なくとも労働者の有給休暇の権利の行使時期を調整するために、就業規則等において、事前の請求と使用者の承認という手続を定めるべきです。ただし、この場合に、就業規則に規定した方法通りに休暇申出しなかった(=就業規則違反をした)からといって、会社が時季変更権を行使することができるかということは、少し難しい問題であることは知っておいて下さい。

単に、就業規則違反ということのみで時季変更権の行使は認められるとはいえないのです。その就業規則違反が「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるかどうかがで、使用者の時季変更権を行使できるかが決まるからです。判例でも、就業規則に取得方法が規定されていたという状態で、労働者側が突然の休暇取得をしたケースにおいて、その規定通り請求できなかった事情を使用者に対して説明しなかったことなどを勘案して、会社側が時季変更権を行使したことを認めたものがあります。

まとめますと、就業規則に違反したからといって、常に有給休暇を認めなくてよいことにはならないことに注意しなければなりません。しかしならが、就業規則等に事前の休暇請求方法について規定しておくことは、例え、突然の請求に対して、休暇を認めないことはできなくとも、就業規則違反自体は残りますので(よほど不合理な規定でない限りは)、懲戒や評価の対象となりうる訳ですから、重要なのです。

 
◆協調できない社員◆

Q8: 我が社では、様々なプロジェクトを協同で遂行していくことが多いのですが、どうしても他の社員と協調できない社員が一人おります。彼は全くのマイペースであり、繁忙な時期でも、仕事に協力しない上に、その旨注意をすれば反抗的な態度をとります。挙げ句の果ては、完全にダンマリを決め込み、彼とは議論が全く噛み合いません。当社は小さな会社であり、彼を配置転換するほどのポストもなく、困っています。どうすればよいでしょうか?

A8:人間関係が円滑にいっていないということは、どこの職場でも多かれ少なかれ存在していることです。そのことが、また職場の上司の大きな悩みでもあります。協調性を欠くトラブル社員の存在により、職場に不可欠な戦力の社員が、プロジェクトの遂行、さらにはこのような職場自体に嫌気がさしてしまい、ひいては職場を去って行ってしまうという由々しき事態も考えられます。要するに、業務の効率性、職場の生産性の低下は管理者側の責任を問われかねない問題であり、職場の環境を改善・指導する努力も含めて、速やかなる対処を必要とします。

協調性を欠くと判断する場合、普通解雇の事由となりえます(就業規則中「職務の能力・適格性を欠く」「業務運営上やむを得ない事由のあるとき」などに該当するでしょう)。したがって、会社も最終的にはこのような決断を視野に入れておくべきです。とはいえ、その前提として業務の遂行には協調性が不可欠であることを、当該トラブル社員に注意、指導して改善の努力を促すことが必要です。可能であれば、トラブル社員の配置転換の検討もしてください。このような手続を踏んでおくことが、解雇を後に解雇権の濫用として無効とされないためには大切であり、万一トラブル社員と会社との間で紛争が勃発した際に、会社としてのリスク・マネジメントになるわけです。漫然と放置したままという姿勢が最も問題です。

ご質問のように、配置転換を考えられない程度の規模の会社の場合でも、やはり注意・指導は不可欠です。ただそれでも、トラブル社員が態度を改めない場合には、解雇もやむを得ないと考えます。

なお、ここでいう協調性とは、あくまでも職場において必要とされる協調性をいいます。すなわち、職場の規律を乱し、業務の遂行に具体的に重要な支障を来す場合に、はじめて、協調性がないと判断をすべきことになります。単に「付き合いの悪い嫌な奴」という程度では、単にその人が個性的であるというにとどます。

 
◆だらだら仕事をして残業代稼ぎをする社員◆

Q9: いつも急ぎの仕事でもないのに、無理に午後10時、11時といった時間まで会社に残り、わざわざ仕事をして残業代を請求する社員がいます。この明らかな残業代稼ぎを何とかすることはできないでしょうか?

A9: 割増賃金の対象となる時間外労働と一口に言っても、ただ会社に残って仕事をこなしただけでは時間外労働とみなされない場合があります。

  • (1)会社から「残業するように」との業務命令をしている
  • (2)「本日中に仕上げて帰るように」と残業をせざるを得ない業務命令をしている従業員からの事前の残業申請を許可している
  • (3)従業員の判断による残業を事後になって認めている
  • (4)従業員の判断による残業を会社側が目撃していても何も言わないでいる
 

以上のうち該当するものがあるのなら、その時間は時間外労働とみなされ、時間外手当ての支払い義務が発生します。逆にどれにも該当しないのであれば、「本人が自主判断で勝手に仕事をしている時間」と考えられます。

そもそも労働時間とは使用者の指揮命令下にある状態を意味しますので、このような時間は非労働時間とみなされます。例えば、業務開始の1時間前に会社について仕事をした場合、つまり早出勤務した場合であっても会社としては定時に出社することのみを要求しており、それを承知のうえで本人が早出勤務しているのであれば、会社が時間外勤務として認めない限り、時間外手当の支払い義務はないのです。

わざと遅く仕事をすることで残業をするような社員に対しては、仕事を打ち切って強制的に帰宅させるか、あるいは仕事を終わらせなくていいから帰宅するように」と命令するしかありません。

「仕事を終わらせなくていいから帰宅するように」と命令したにもかかわらず、会社に残って仕事をしている場合は、「本人が自主判断で勝手に仕事をしている時間」となるわけですから時間外労働には該当しません。したがって、時間外手当の支払いは、本人から仮に請求があったとしても支払う必要はないのです。

強制的に帰宅させるということは、仕事が完遂していない状態で帰らせることになるので、使用者として当初は厳しいと感じるでしょう。しかし、残業代稼ぎの社員に対抗するためには、避けては通れないことなのです。そして、これを毅然とした態度で繰り返すことによって、良い方向に転べば、仕事を早く終わらせようとする本人の意識を目覚めさせることになり仕事の効率化を実現できますし、仮にこのような変化がなかったとすれば、人事考課により職務等級を下げることになるでしょう。その結果として、基本給の引き下げや賞与の減額などにつながることになるのです。

 
◆残業を拒否する社員◆

Q10: 最近の若手社員はプライベートを特に大事にするようです。残業を極度に嫌がって露骨に嫌な顔をします。先日も「残業してでもやれ。」と指示したら、「終業後は自分の時間です。」ときっぱり言われてしまいました。どうしたらよいでしょうか?

A10: 残業命令が"適法に行われた"のであれば、これを拒否するのは、業務命令違反として懲戒の対象となります(なお、就業規則等に業務命令違反に対する懲戒が規定してあることが前提となります)。

ただし、正当な理由があって残業命令を拒否した場合にまで懲戒の対象とすることは、懲戒権の濫用として許されません。労働者に拒否理由を尋ねると同時に、特段の理由がないならば改めて残業命令の遵守を求めるなど、是正の機会を与えるべきでしょう。それでもなお不当に残業を拒否し続けるならば、最終的には懲戒解雇も視野に入れて対応することになります。

では、前提の「残業命令を適法に行った」というのはどういうことでしょうか? 労基法上、労働時間の上限が定められています。使用者は、労働者に、休憩時間を除いて1週間のうち40時間を超えて労働させることはできません。また、同様に1日につき8時間を超えて労働させることはできません。これを超えていわゆる時間外労働をさせる場合、予め次の手続を踏んでおく必要があります。

  • (1)時間外労働・休日労働に関する労使協定(三六協定)を締結する
  • (2)この労使協定は書面で行う
  • (3)労働基準監督署に届出を行う

ただし、この手続を取れば、どのような残業も命令できるというものではありません。「時間外」ですから、労働者が残業命令に同意した場合にその義務が生じるのが原則です。

残業について就業規則の定めがあり、その内容に合理性がある場合には、個別に労働者の同意を得る必要はないとされています(日立製作所武蔵工場事件 最判 平成3年11月28日)。また、嫌がらせやいじめなど、不当な目的での残業命令を出すことはできません。残業命令の内容に合理性があることが必要です。それでもなお、労働者が拒否した場合にはじめて、業務命令違反となるのです。

 
◆自分勝手な離職理由の変更を要求してくる社員◆

Q11: 先日、一方的に退職届を提出した者が、「離職理由を”自己都合による退職”から”会社都合による退職”に変更してくれ」と申し出てきました。この場合、変更要求に応じなければならないのでしょうか?

A11:以前は、退職の事由として、次の就職に影響するため”会社都合”よりも”自己都合”ということにしたいという要望が多かったようですが、最近、この事例のような要求を平気でしてくる従業員が増えているようです。これは、雇用保険の失業給付の問題に起因します。雇用保険の失業給付は、自己都合による退職の場合には、7日間待機期間にプラスして3ケ月間の給付制限期間が経過しなければ受給できません。これに対し、普通解雇などの会社都合による退職や契約期間の満了の場合には、7日間の待機期間が過ぎればすぐに受給できるようになっています。つまり退職者としては、離職理由を会社都合に変更してもらったほうが、3ケ月も早く失業給付がもらえることになるのです。

しかしながら、事業主が離職理由の変更をしてしまうと、それは会社側が認めた違法行為となりますので、退職者よりもむしろ事業主のほうが処分の対象になる恐れがあります。会社として自分勝手の離職理由の変更要求があった場合に、事実を曲げてまでその要求をのんでしまうと、労務管理にもさまざまな弊害を及ぼします。従業員からの要求に対し、「はいはい」と会社がすぐに変更するようであれば、どんな要求でも屈する会社であると、残された従業員は受け取り、規律が守られなくなっていくことでしょう。また、「あの人は会社に貢献したから」「家の事情があるから」などといって、事業主の裁量と個人的な事情によって変更要求に応じたり応じなかったりと、統一的な扱いをしない場合には、従業員に不公平感を呼び、働く意欲を下げる要因ともなり兼ねません。

会社としては、明らかに事実と異なるにもかかわらず、雇用保険の失業給付のために離職理由の変更を要求された場合には、「事実に反するので変更は認められない」という毅然とした対応をすべきです。

また、会社によっては、従業員が自ら退職届を提出する場合を除いて、別段、退職届の提出を必要とせず、口頭による退職の申し出でも退職を認める場合があります。しかし、この場合、退職後の無用なトラブルの元となりかねませんので、就業規則などに「退職を申し出る場合は(中略)退職届を提出すること」と規定して、必ず本人自筆の文書を残しておくことが重要です。なぜなら、良識ある大半の方には関係ない話ではありますが、ごく稀に退職届を出していないことをいいことに、「自己都合はおかしい」と文句を言う者がいるからです。こうなっては水掛け論となり、トラブルを招くことになってしまいますので、この点は注意した方がよいでしょう。