中小企業に対応した人事制度を構築(変更)しようとするとき、構築(変更)すること自体が目的になってしまわないために、考えておきたいことがあります。
賃金制度を整備(変更)するだけでは、会社の状態は何も変わりません!◆人事制度を作る(見直す)というと、賃金制度を作る(見直す)ことだと思う経営者の方は多くおられます。確かに、賃金は極めて重要な要素です。しかし、誤解していけないのは、賃金制度を変えただけで、皆が急にやる気を出して能力を上げ会社の業績が向上するということはほとんどありません。 ◆ 現状から会社の経営計画上の目標とする姿のためになるための適正人件費はどの位であるのか。その人件費の範囲内で、どのような従業員にどれだけ支払うかという方針と仕組みがあってこそ、初めて賃金制度を作る(見直す)価値があると思います。 賃金に対する社員のモチベーションについての思い込みに注意しましょう!◆社員従業員は、お金で動くのではありません。“お金だけでは”といった方がよいかもしれませんね。もちろん、重要な要素であるのは確かですが、モチベーションを高める効果としては、非常に短期的な効果しかありません。何故なら、一旦支払った賃金は、その時点でそれが”貰って当然の基準”に変わってしまうからです。 ◆低すぎる賃金では働く気が起きないのは勿論ですが、賃金を上げたから従業員はそれをありがたいと思って会社のためにがんばるというものではないことを、経営者は頭に叩き込んでおかなければならないでしょう。でないと、人件費は確実にUPするのにそれに対応した働きが得られず、「賃金を上げてやったのに何故だ?」という思いがストレスとなり、却って逆効果です。橘は、そういう悪循環にはまりこんだ会社を見てきました。 (2)人事・賃金制度を、経営課題や経営戦略とリンクさせるとは?人事制度や賃金制度は、経営課題を解決する手段、経営戦略を実行する仕組み!◆例えば、現状の会社の戦略として、重点商品の新規顧客への売上増大による収益向上を狙うといった場合に、評価では「既存顧客に対して決め細やかな対応をしている」ことに重点がおかれていたり、育成内容が「既存顧客への対応の仕方」でしかなかったとすればどうでしょうか。現在の会社が打ち出した経営戦略の実行に対応しない従業員が育ち、評価されることになります。 ◆つまり、新規顧客の開拓により利益を出すことを方針としているのであれば、例えば営業部門では、新規顧客開拓を実行している営業マンが評価されるべきです。
経営戦略の実行=会社が求めていること、そして業績に貢献をした従業員を賞賛し、優遇する仕組みを作るということが大事です。
また、会社が求めていることというのは、それぞれの会社で、またその時期によって異なるのですから、他社で採用されている制度をそのまま運用してうまくいくはずがないのです。
人事・賃金制度に経営課題・経営戦略と直結させるためにすべきこと!◆「人事制度や賃金制度は、経営課題、経営戦略を落とし込んだものでなければならない」−このようなことはいろいろな本に書いてありますが、実際に、経営課題、経営戦略を人事・賃金制度に落とし込むとは実際どうすることでしょうか? まず会社には目標があります。そして、その目標を達成するためには、現状での課題を解決し、達成のための戦略を実行していかなければなりません。 ◆そのためには、
◆具体策がないまま「経営課題」を解決しなさいとか、漠然とした経営戦略を「実行しなさい」と、経営者が言い放つだけでは、従業員側としては、何をどうしていいかわかりません。結局何も変わらないことになります。経営課題を解決し、経営戦略を実行する“あるべき姿”のために何をどのようにすべきか、そこを徹底的に皆で考える場を従業員側に与えるという過程こそが大事です。そして、とことん考えた結果の目指すべき目標(成果)や、なすべき職務・果たすべき役割、行動等を明確にし、従業員全体で共有して、それぞれに実行してもらうことです。
(3)人事制度は簡単な方がよい?◆「簡単」=「わかりやすい」という意味であれば、人事制度は「簡単=わかりやすい」方がいいでしょう。しかし、「簡単」=「手軽に短時間に構築できる」制度であればいいというのは、少し違います。 ◆とりあえず制度があればよいというなら別ですが、人事制度を構築・変更するなら、会社の業績向上に寄与したいと考えます。しかし、人事=“ヒト”に係わる制度です。それまでの組織風土、歴史が染み付いた社員達が、簡単に出来た制度で変わるでしょうか。 ◆人事制度の構築や変更に、そんなに人もお金も時間も割けないという中小企業様も多いと思いますが、本気で会社を変えるというのであれば、少なくともある程度の時間は掛けて下さい。他社の制度をそのまま適用すれば、制度自体はあっという間に完成かもしれませんが、とてもお勧めできません。構築したいのは、”他社”に適した制度ではなく、”自社”の業績向上に結びつく制度だからです。そのためには、自社の課題と課題解決についてじっくり考える時間が必要です。 ◆加えて、制度を「作る」ことよりも、社員の皆さんに制度を「定着・浸透させる」ことこそが大事ですので、そこに時間を割くことは不可欠です。 (4)人事制度を構築する上で、社員数も少なく職務の基準を作ること自体が難しい場合には、何を行うと効果的か?◆人数が少なく、ひとりの人がいくつもの職務を兼ねているということもあって、例えば等級制度をきちんと構築するには無理があるということもあるかもしれません。 ◆橘は、中小企業にとっては、”評価”がキモであると考えます。あえて、”評価制度”といっていないのは、制度としてきちんとして体系化しなくとも根本的な考え方と運用方法が間違っていなければ、きちんと機能するからです。 ◆従業員数が少なく、管理職がきちんと確立されていないような企業の場合には、等級制度がなくとも、評価項目により、会社が必要とする能力や役割を示すことができます。この評価項目を、他社の真似でなく自社に求められる成果、役割や能力を充分に吟味して設定し、それに対する評価の基準を定めることで、トータルに構築された人事制度がなくとも、充分に機能します。従業員数が少ない会社は、まずは”評価”の導入を考えられればいいかと思います。最初は賃金と連動させなくともよいと思います。育成のための指標として使っていき、充分に浸透してから賃金と連動させるのもひとつのやり方だと考えます。 ◆そして、是非とも、評価項目のひとつに、目標達成度を加えて頂きたいと思います。なぜか?それは、業績向上に直結するからです。特に、明確な目標を意識せず毎日の業務に追われているという中小企業は案外多いものです。そういった企業には、まず、目標を立ててそれを目指すということ自体が必要です。”目標管理”というマネジメント手法として確立されるまでは、「目標をどのように設定し、その目標を達成するためにどうするかを考える」と、いうことからスタートすればよいと思います。
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