人事・賃金制度を構築する目的は?


企業が人事・賃金制度を設ける目的はおおまかに3つあるでしょう。

  • ①人材の育成
  • ②人件費の配布による処遇決定
  • ③人材や賃金の管理

これらのうち、中小企業にとっては、①と②が主たる目的となるでしょう。大企業のように人数が多くてひとりひとりの顔がまったく見えない状況であれば、③の管理という側面も強くなりますが、中小企業であれば、まずは、人材育成のためと位置づけ、そこに処遇が連動すると考えるべきです。

しかし、これらよりもう一段階上にあるより大きな根幹ともいえる目的は、『企業の業績向上へ結びつける』です。

例えば、こんな例があります。

■営業担当のAさんは、営業マンとして育て上げるため、営業力について半期毎に評価をし、営業手法やプレゼンテーション能力を徹底的に教育しました。その結果、Aさんは、営業力はぐんとつき、売上げはどんどん上がりました。

■しかし、Aさんは、自分自身の営業に走るあまり、後輩が困っていても決してアドバイスなどしません。上司に必要な報告も時間がないといって度々抜けてしまいます。面倒な伝票を書いたり整理したりする仕事は、毎日遅くまで外を飛び回っているため、夜遅くから事務担当者に任せてしまいます。そのためその事務担当者の残業時間が増大し不満もたまる一方です。

■評価の時期となりました。この会社の営業マンに対する評価項目は、『売上、粗利、企画力、プレゼンテーション力』です。Aさんは、これらのどの項目も優れています。売上増大=会社の業績に貢献したとして、よい処遇をしました。

■しかし、Aさんが指導をしないため後輩が育ちません。また、人を押しのけてまでという態度が他従業員のモチベーションを下げてしまいました。加えて、Aさんのせいで事務作業が増えた営業事務担当者の残業時間が増加し、結局その部署の利益は昨年より低減してしまいました。

◆確かに、会社はAさんを営業マンとして育成し、その結果を処遇に反映させています。しかし、Aさんのおかげで会社は一時的に売上を上げたのですが、結局部署や全社的に見れば、業績のマイナスを導いてしまったのです。このようなことを招くのであれば、業績向上を実現させる人事・賃金制度とはとてもいえません。

◆実は、そもそも「営業マン全体の力が足りないので、後輩育成が必要であった」とか、「事務員の残業が問題になっていたのに、その業務配分を考えた行動を皆が取らなければならなかった」というような課題があったとしたらなら、それを無視して制度に組み入れるということをしていなかったのは問題です。

◆つまり、育成や処遇への対応が目的といっても、それが会社業績の向上に相反するものでは、全く意味をなしません。人事・賃金制度が『経営』のためのツールであることを考えれば、利益を出し会社の業績を少しでもよいものとするための制度であるべきであるし、そのように運用されるべきものです。