労務管理勉強室 2009年11月5日

 業務命令違反の懲戒の有効性について


 今回は、日々行われる業務命令に対して違反した社員に対する懲戒処分の有効性について、考えたいと思います。

 使用者は、労働契約上の権限として、労働者に対し、一般的にまたは特定の業務に従事するよう指示・命令でき、労働者はこれに服従する義務を負います。 また、その違反に対しては、就業規則の「懲戒」の項目に定めてある懲戒処分の規定に基づき、懲戒がなされることになります。

 ところで、労働基準法など法律に、懲戒に関して記載した条文はありません。従って、ある業務命令違反に対する懲戒処分が有効か無効かについて争われた場合、最終的には裁判所が判断することになります。 判例によれば、業務命令違反を理由とする懲戒権の発動には、いずれも当該業務命令の『業務上の必要性』、『内容の相当性』、『対象者の人選の合理性』、『手続きの相当性等』を考慮し、労働者にこれを拒否すべき正当理由があったか、また著しい不利益を与えるものか等が判断されており、併せて懲戒処分の相当性も考慮されています。

 すなわち、業務命令の通告をすること及び懲戒処分の通告をすること、いずれにおいても、その内容と手続きと両面にわたって慎重さと妥当性が必要だということになります。 以下に、過去の判例を挙げてみます。


◆懲戒処分が「有効」とされた判例

応援命令拒否(静岡地判昭46.8.31 三菱電機事件)
3ヵ月では長期といえず、必ずしも根拠を要しないし、9日間の出動停止処分を有効。

出張命令拒否(大阪地判昭62.5.25 佐世保重工事件)
大阪から東北・北海道地区への12日間の出張命令に合理性があり、本人の了解が得られるように誠実な対応をしたこと等を理由に、懲戒解雇を有効。

昇格命令拒否(大阪高判昭53.3.10 津田電線事件)
大卒者の2ヵ月間の辞令受領拒否は、人事秩序、人事計画を破壊するとして、諭旨退職処分もやむを得ない。

配転命令拒否(最判昭61.7.14 東亜ペイント事件)
神戸から名古屋への転勤に業務上の必要性があり、家族との別居等の不利益も拒否理由とはならないとして、懲戒解雇を有効。

出向命令拒否(長野地松本地判平元.2.3 新日本ハイパック事件)
系列の出向命令について、就業規則と労働契約に定めを有し、出向元と出向先の賃金規定の内容が同一であること等を理由に、懲戒解雇を有効。

転籍命令拒否(東京高判昭63.4.27 日立精機事件)
親会社の入社案内に子会社が勤務地の1つとして明記され、採用面接の際に転籍があり得る旨の説明に同意した、従前から多数例の転籍が異議なく行われてきた等から、懲戒解雇を有効。

指定医への受診命令拒否(最判昭61.3.13 電電公社帯広局事件)
当該命令に合理性ないし相当性を認め、戒告処分を有効。

調査指示等違反(千葉地判平2.7.27 タチオ事件)
信用調査会社の従業員が、不完全な調査報告書に対する上司の再提出命令に従わず、会社所有の調査資料を借り出したままその返還指示にも従わなかったとして、懲戒解雇が有効。

残業命令拒否(最判平3.11.28 日立製作所武蔵工場事件)
自らの手抜き作業があり、過去3回の処分歴やその後の挑発的態度等により、懲戒解雇を有効。

制帽着用拒否(横浜地判平6.9.27 神奈川中央交通事件)
バス乗務員の制帽、制服着用に、その職責からの合理性ありとして、減給処分を有効。

処分通知書受領拒否等(東京地判平11.11.15 旭化成工業事件)
上司への業務指示違反、会社の組織批判、上司を上司として認めない言動等による7日間の出勤停止の処分通知書受領拒否、強行就労、その後の業務指示違反等による諭旨解雇を有効。

エックス線検査受診拒否(最判平13.4.26 愛知県教委事件)
放射線暴露の危険を理由とする受診拒否は、検査を行うことが相当でない身体状態ないし健康状態にあったなどの事情もないとして、3ヵ月の減給処分を有効。


◆懲戒処分が「無効」とされた判例

精神修養講習会拒否(名古屋地判昭38.4.26 三重宇部コンクリート工業事件)
精神修養のための講習会で伊勢神宮参拝などを拒否した事案で、自己の信仰する宗教と異なる宗教行事への参加を拒むことは、権利として保障されており、何ら非難されるものではない。

出航命令拒否(最判昭43.12.24 千代田丸事件)
生命、身体の危険を伴う業務は義務の範囲に入らず、解雇は無効。

ネクタイ着用拒否(東京地判昭46.7.19 麹町学園事件)
ネクタイを着用せずに授業を行うことが乱れた服装であるという社会通念はないとして、解雇を無効。

時間外安全教育への出席受講命令拒否(横浜地川崎支決昭47.3.7 ゼネラル石油精製事件)
受講の同意がなく、懲戒解雇を無効。

自衛隊訓練放棄(横浜地決昭48.10.12 イースタン観光事件)
本人の責任感の欠如にあり、会社の自衛隊に対する信用失墜があるとしても、諭旨解雇は重過ぎるとした。

所持品検査拒否(横浜川崎支判昭50.3.3 帝国通信工業事件)
会社の検査方針がやや当を欠いたこと等から、懲戒解雇処分は苛酷にすぎる。

調査命令協力拒否(最判昭52.12.13 富士重工事件)
社内の原水禁運動について職務上調査に協力する立場になく、職務との関連性もないなどとして、譴責処分を無効。

お茶汲み命令拒否(平8.3.29 浦和地決)
業務範囲でないとして、解雇を無効。

髪の染め直し命令拒否(福岡地小倉支判平9.12.25 株式会社東谷山事件)
黄色に染めた髪を元に戻せと指示したことに、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くとした。

始末書提出拒否(名古屋地決昭53.9.29 共栄印刷紙器事件)
無届遅刻についての始末書提出要求に応じないからといって、いきなり懲戒解雇処分に及んだのは、あまりに性急にすぎる。

休日出勤命令拒否(東京地判平11.11.15 旭化成工業事件)
政党主催の「うたごえ祭典」を理由とした拒否に、減給処分は重すぎる。


 以上の例のうち、有効とされた判例の②、③、⑦、⑨、無効とされた判例の⑧、⑨、⑩ については、いろいろな事業所様で、起こり易い事項ですので、是非ご参考になさってください。