労務管理勉強室 2008年5月15日
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労働時間とは? |
『労働時間』とはどんな時間なのでしょうか。『労働時間』であれば、その時間に対しては賃金が発生しますので、いつからいつまでが労働時間なのか、明確にしておかなければ困ります。
ところが、法律の条文にどんな時間が労働時間か列挙されている訳ではなく、判断が分かれたり、誤解していたりということがしばしばあります。
『労働時間』とは、行政解釈においても、最高裁判例においても「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間」と解釈されています。ただ、「指揮命令下におかれているかどうか」という判断自体も難しいです。従って、今までの判例や行政解釈をもとに具体的な事例についての考え方を示します。
なお、実際に労働時間に該当するか否かは、状況により個別的に判断されるため、似たような内容でも、労働時間と判断される場合とそうでない場合がありますので、その点はご了承下さい。
【通勤時間】
通勤時間は、労働者が労働契約に基づいて、使用者に提供することを約束した労働力を使用者の支配下まで持参する時間ですし、また、その時間の間、寝ていこうと、新聞を読んでいこうと自由で使用者の指揮監督下に入る前の労働者の自由時間と位置づけられ、労働時間にはならないと解されています。
- ① 会社の寮から労務を提供すべき各工事現場まで会社の用意したバスに乗って行く時間が、通勤時間の延長ないし拘束時間中の自由時間ともいうべきものであるとして、労働時間にならない(高栄建設事件〔東京地裁平10.11.16判決〕)
※ただし、会社が、用意したバスで行くように”指示した場合”(=移動について他の選択肢が無い場合)には、使用者の指揮命令下にあるとして労働時間とみなすという行政判断もあるので要注意です。
- ② 原告が行った会社事務所と工事現場の往復は通勤としての性格を有するものであり、これに要した時間は労働時間にならない(阿由葉工務店事件〔東京地裁平14.11.15判決〕)
【出張中の際の旅行(移動)中の時間】
この場合、現金、有価証券、貴金属、機密書類、機械等の運搬するのが出張の用務である場合は、その運搬用務を行っている時間は、原則として労働時間になるが、そうでなく、単に乗物に乗って目的地に出張するための旅行時間は、労働時間にならないと解されています。
- ① 出張の際の往復に要する時間は労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えるから、その所要時間は労働時間にならない(日本工業検査事件〔横浜地裁川 支部昭49.1.26決定〕)
- ② 出張先から移動が休日になされたからといって、休日労働に従事したとはいえない(東京産業事件〔東京地裁平元11.20判決〕)
- ③ 移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実勤務時間に当たると解するのは困難である(横河電機事件〔東京地裁平6.9.27判決〕)
【業務の準備行為等】
前述の三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決にいう「準備行為等」のうちの「準備行為」には、同事件で問題となった作業服への着替え及び保護具等の装着や副資材等の受出し及び散水のほか、始業前の機械の注油、点検、整備作業、朝礼、ミーティング及び準備体操などが入ります。また、「等」については、準備行為に準ずるものとして、同事件で問題となった保護具等の脱離、洗身のほか、作業終了後の整理、整頓、引継ぎ等の後始末作業が含まれます。
- ① 始業前点呼、点検後の勤務場所までの移動、退社前の点呼は、就業のために必要な準備行為であって、なおかつ義務付けがあったから労働時間となるが、始業前の業務引継ぎは、実際には、実施されていないか、簡潔・頻度の少ないもので、そもそも義務付けがないとして労働時間にはならない(東京急行電鉄事件〔東京地裁平14.2.28判決〕)
【従業員の研修時間】
研修への参加を義務付けるならば、労働時間となります。また、当該従業員の担当業務そのものに関する場合や密接に関係する場合は、その参加について包括的な業務命令が発せられていると解されるでしょう。しかし、完全に自由参加のものであり、それに参加しないことについて、何らの不利益も定められておらず、それが実務上も担保されている場合は、労働時間とはなりません。
- ① 会社の設定した施策の伝達及び従業員の安全教育のためにする職場安全会議への出席時間は労働時間となる(九十東綱運輸倉庫事件〔大阪地裁堺支部昭53.1.11決定〕
- ② 作業終了後のミーティングへの参加は強制ではなく労働時間とならない(あぞの建設事件〔大阪地裁平6.7.1判決〕
【健康診断時間】
使用者は、労働者に対し、健康保険実施義務を負い、労働者は、その協力義務ないし受診義務を負っています。裁判例ではありませんが、健康診断時間については、次のような通達があります。
「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものでではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。」(昭47.9.18基発602)
【仮眠時間】
ビルの管理会社の従業員などについては、労働時間の間の仮眠時間が設けられることがあります。この仮眠時間に何をするかといいますが、一般には、待機をしていて警報が鳴るなどしたら相当の対応をしなければならないが、そうでない限り、仮眠をとってもよい時間と位置づけられています。大星ビル管理事件最高裁判決(平14.2.28)は、仮眠時間のような不活動時間が労働時間に当たらないためには、労働者が実作業に従事していないというだけでは不十分で、「当該時間に労働者が労働から離れることを保障」されることを要するとしました。そして、仮眠時間中、「仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」ことから労働からの解放の保障がないとして、労働時間に該当すると判断しました。この種の裁判例は、その後も続いて出ています。
なお、昼休みの休憩時間についても、一定の部屋にとどまることと、電話が鳴った場合、それに対する対応を義務付けると、仮眠時間の場合と同様の労働時間となりますので、注意が必要です。
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