是正勧告を受けやすい事項とその解説


 是正勧告を受けやすい事項と根拠条文を以下に挙げます。

【労働条件の明示】
●労働契約の締結時において労働条件を書面で明示していない。(労基法15条1項)

募集要項に労働条件を記載していたので、又は口頭で説明したので、改めて労働条件を書面で示す必要はないとか、パートやアルバイトを雇う場合には、必要ないと勘違いしておられる経営者もおられるようです。契約自体は口頭でも構いませんが、一定の事項については、「書面」(労働契約書、雇用契約書、労働条件通知書など)で明らかにしなければなりません。さらに、「明示」とは、施行規則第5条において、「書面の交付」をすることであると規定されていますので、労働者に書面をぱっと見せるだけや、会社側が保管しているだけというのも法違反となるのです。また、労働者を採用するにあたって、条件をきっちりと書面で明示していないことが、トラブルを招く第一歩となっていることが多く、監督署への労働相談の大半のケースで、この15条違反が見られました。          

【賃金】
●書面による労使協定がないまま、賃金から食事代や○○会費を控除している。
(労基法24条)

「賃金控除に関する協定」を締結することなく、法令の税金や保険料以外のものを賃金(賞与も含む)から控除している事業所様は結構あるのではないでしょうか。
この協定は監督署に提出する必要はありませんが、きちんと会社で保管しておく必要があります。         

【割増賃金】
●時間外、休日、深夜労働に対して法で定めた割増賃金が支払われていない。
(労基法37条1項)

労基法違反の代表選手です。支払わないということだけでなく、割増賃金が正しく計算されていないことも多いようです。労基法及び就業規則の規定に則って、法定外労働時間、所定外労働時間、法定休日、所定休日を、それぞれ把握し正確に計算する必要があります。また、算定基礎額を間違えているケースも多く見られます。
さらに、例えば課長以上の役職を持つ労働者に対して、法定外労働に関する割増賃金を支払わなくともよいという運用をしている事業所様も多くありますが、40条に規定する管理監督者というのは非常に限定されており、実際は該当する労働者は中小企業においては、ほとんどいないのが実情でしょう。また、管理監督者であっても、深夜割増の支払義務があることは注意して下さい。
定期監督における是正勧告であれば、通常3ヶ月間遡って正しく支払うように指導されます。

【労働時間】
●36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を結んでいない、または協定届を監督署に届け出ていないにも係らず、法定時間外労働をさせている。(労基法32条)

36協定を軽く考えている事業所様は多いようです。これを作成し監督署に届け出なければ残業をさせることは法違反であるという認識をもたなければなりません。よくある誤解としては、(1)一度届けていれば永久に通用すると思っている(2)就業規則と同様10人以上の事業所のみが作成提出する義務があると思っている(3)本社が提出していれば各営業所・支社などは提出義務がないと思っている、などがあります。          

【労働時間】
●一年単位の変形労働時間制を採用しているが、労使協定の締結及び監督署への届出がなされていない。(労基法32条の4)

変形労働時間制を採用するためには、協定の締結及び監督署への提出義務がある制度があることを、ご存知ない場合があるようです。一年単位の変形労働時間制については、就業規則に定めるだけでは採用することはできないので、毎年36協定とともに提出するようにして下さい。

【就業規則】
●常時使用する労働者が10人以上いるにも係らず就業規則を作成していない。監督署に
届け出ていない。(労基法89条)
●就業規則作成にあたって、労働者代表の意見を聴いていない。(労基法90条)

常時使用する労働者とは、正社員のことだけではなくアルバイト等も含みます。また、これは「事業所単位」であり、ある会社において、A営業所には8人、B営業所には11人の常時使用労働者がいれば、少なくともB営業所については、管轄する監督署に就業規則を届け出なければなりません。
また、届け出る場合には、就業規則(変更)届、従業員代表の意見を記載した意見書を付けて提出しなければなりません。

【就業規則】
●就業規則の内容を労働者に周知していない。(労基法106条)

周知とは、特に従業員一人一人にコピーを配るまでする必要はありません。しかし、いつでも閲覧できる場所に置いておくこと、従業員から見せて欲しいと申し立てられた場合には、見せる必要があります。

【帳簿関係】
●労働者名簿がつくられていない。(労基法107条)
●賃金台帳に労働日数、労働時間、時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間など
を記入していない。(労基法108条)
●労働者名簿や賃金台帳が3年間保存されていない。(労基法109条)

労基法関連の「3大法定帳簿」である、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿は、その形式は問いませんが、法で定められた必要事項が記載されていなければなりません。
「3大法定帳簿」のうち、履歴書があるからということからか、労働者名簿の作成をしておられないケースが多いようです。

【健康診断】
●常時使用する労働者の雇い入れの際に、雇入時の健康診断を行っていない。
(労基法66条,安衛則43条)
●常時使用する労働者に定期健康診断を実施していない。(安衛法66条,安衛則44条)
●深夜業務に常時従事する労働者に対して、6ヵ月以内ごとに1回、健康診断を実施して
いない(安衛法66条,安衛則45条)

健康診断についてご存知ない事業所様は非常に多いようです。他は完璧でも、この点だけ是正勧告を受けるということもよくあるようです。また、健康診断の結果は、会社で保管する必要があります。

【安全衛生管理体制】
●常時50人以上の労働者がいるにもかかわらず、安全委員会、衛生委員会を設けていない。(安衛法17条,第18条)

これも法的義務をご存じないまま違反を犯しているケースが多いようです。
下表に示す事業所は、委員会を設置すべき対象事業場となります。

<安全委員会の設置>

業種 規模
林業、鉱業、建設業、製造業のうち木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業および輸送用機械器具製造業、運送業のうち道路貨物運送業および港湾運送業、自動車整備業、機械修理業並びに清掃業 50人以上
製造業(物の加工業を含む。なお、上記にあげる製造業を除く)、運送業(なお、上記にあげる運送業を除く)、電気業、ガス業、熱供給業、家具、建具、什器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・什器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 100人以上

<衛生委員会の設置>

業種 規模
すべての業種 50人以上