労働者派遣について その1〜派遣法全般について〜(1/4)

(1)派遣契約について

1.派遣先と派遣元との契約の締結について

人材派遣の契約

 人材派遣を開始するに当たり、人材派遣の契約、すなわち派遣先が派遣スタッフに指揮命令できる根拠となる契約が結ばれます。ここには派遣先と派遣スタッフの間で結ばれる契約は何もなく、すべて派遣元を中心として行われます。
さらに人材派遣では、派遣法のみならず労働基準法までもが係わってくることから、それぞれの法律で定めている手続きを実施する必要があり、いくつもの書類を作成しなければなりません。
まずは、その概要だけを説明します。

派遣元と派遣先の契約

最初に、人材派遣では、派遣元がスタッフを派遣し、派遣先は派遣スタッフを業務に従事させる代わりに料金を支払うという契約を結びます。
ただし、派遣法では、派遣スタッフの保護を図るために派遣契約書に記載すべき事項を定めており(派遣法第26条1項)、これらの事項は必ず盛り込む必要があります。
この派遣契約書は、1枚の契約書にしてもよいのですが、多くの場合、同時に複数の派遣を繰り返すことから、料金など派遣の仕組みの大枠を定めた『基本契約書』と、個々の派遣における就業条件など詳細を定めた『個別契約書』に分けています。このうち、法律が記載事項を定めている契約書とは、後者の『個別契約書』を指します。

派遣スタッフとの雇用契約

人材派遣は派遣元と雇用関係にある者を派遣するわけですから、派遣元は、登録スタッフと雇用関係を結びます。常用型の場合は、派遣スタッフとは既に雇用契約が結ばれていますから、ここでは必要ありません。
なお、このときの雇用条件は、派遣契約で結ばれた休日、休暇などの就業条件となります。

文書による明示事項

 契約書の締結のほかにも、文書を作成し通知すべき事項が、派遣法と労働基準法で定められています。 まずは派遣スタッフの氏名など、どのような人物が派遣されるのかということを派遣先に通知します。派遣契約では、派遣元の社員を派遣することを契約するのであって、人物の特定はされないからです。
次に、派遣スタッフにも、労働基準法で定める労働条件と、派遣法で定める労働条件を明示します。
最後に、派遣先がスタッフを受け入れることができる期間(派遣受入期間)には限度が定められているため、派遣先から、派遣元に、法律で定められた事項を通知します。

派遣に必要な契約と文書の流れ


2.人材派遣(基本)契約書に記載する事項

基本契約は自由に決められる


 派遣法が求める労働者の保護に関する事項については、個別契約書に盛り込む必要があります。
それ以外の派遣料金、債務不履行の場合の損害賠償責任などについては、派遣元と派遣先の当事者が自由に決めることができ、基本契約に盛り込むのが一般的です。
派遣元、派遣先としては、法律に定められている事項を遵守することはもちろんですが、その他の基本契約に定める事項が、事業を行ううえでは切実な問題であり、自由に定めることができるからこそ、十分な検討を要するものなのです。

主な契約事項

「人材派遣(基本)契約書」は後日のトラブルを防止するために、確認すべき事項を網羅しておくべきです。少なくとも、次のような事項が必要になってきます。

  • ① 契約書の目的・・人材派遣を目的とする契約である旨。
  • ② 個別契約書への委任規定・・具体的な派遣の実施および基本契約に定める以外の事項は個別契約書を締結する旨。
  • ③ 派遣料金の設定、集計、支払いの時期・・具瀧的に誰が計算しても同額となるように、また時間外労働については、派遣元は派遣スタッフに労働基準法の割増賃金を支払う必要があるため料金の割増計算について、率または額で取り決めるべきです。
  • ④ 派遣スタッフの休暇の取り扱い・・スタッフの休暇の取得がスムーズに行われるために必要な事項を確認します。
  • ⑤ 守秘義務・・派遣就業において知った情報などについて他に漏らさないことを確認しておきます。
  • ⑥ 基本契約書の契約期間・・基本契約としての有効期間


3.人材派遣(個別)契約書に記載する事項

 一般的に、派遣法でいうところの派遣契約内容は、「労働者派遣個別契約書」に規定されます。記載すべき内容は、派遣法に規定されていますので、内容に漏れがないようにしなければなりません。派遣契約書に定めるべきとされている事項は次の通りです。

派遣(個別)契約書確認チェックシート
貴社の締結された派遣(個別)契約書には、以下の項目が記載されていますか?
※は、記載漏れや不十分になっている場合が多い項目です。
チェック欄
派遣するスタッフの人数  
従事する業務の内容  
従事する事業所の名称および所在地その他就業の場所  
就業中の派遣スタッフを直接指揮命令する者に関する事項  
派遣期間および派遣就業をする日  
派遣就業の開始および終了の時刻ならびに休憩時間  
安全衛生に関する事項(ある程度具体的に何をするかを記載すること)  
苦情の処理に関する事項(派遣元・派遣先で、それぞれ苦情処理担当者を決めた上で、どのような体制で苦情処理をするかといった内容が必要)  
派遣契約の解除に当たって講ずる措置  
10 紹介予定派遣に係るものである場合には、紹介予定派遣に関する事項  
11 派遣元責任者および派遣先責任者に関する事項  
12 5.派遣就業日または6.所定就業時間以外に、就業させる日または延長時間
「時間外労働させる上限は、1日当り▲時間、週当り◆時間、月当り●時間とする」
「休日労働は、月に何日で、その場合の就労時刻は●時〜◆時」といった表現が必要
 
13 派遣スタッフの福祉の増進のための便宜の供与に関する事項  
14 派遣業務が派遣受入期間の制限の除外業務である場合、それぞれ次の事項
・「専門的26業務」の場合、派遣令第4条各号の該当する号番号  
・「プロジェクト業務」の場合、派遣法第40条の2第1項2号イに該当する旨  
・「就業日数が少ない業務」の場合、派遣法第40条の2第1項2号ロに該当する旨、派遣先でその業務が1ヵ月に行われる日数、派遣先に雇用される通常の労働者の1ヵ月の所定労働日数  
・「育児の代替業務」または「介護の代替業務」の場合、休業する労働者の氏名・業務、休業の開始および終了予定日