役立ちNEWS解説 2008年2月15日 

 管理監督者の残業代問題について


店長にも残業代を支払う必要あり!
日本マクドナルド事件東京地裁判決による「店長≠管理監督者」判決が、外食業、小売業に大きな影響! 


日本マクドナルドの埼玉県内の店長が未払い残業代などの支払いを求めた訴訟で、平成20年1月28日、東京地裁で「原告は、労働基準法(第41条第2項)によって割増賃金支払い対象から除外される労働基準法第41条 の『管理監督者』ではない」という判決が出ました。そして、未払いの時間外労働、休日労働に対する未払い賃金として、マクドナルドに約755万円の支払いを命じたのです。

今回は会社側が控訴しましたが、この地裁判決が世間に与える影響は大きく、これを機に多くの企業で『管理監督者』の残業問題がクローズアップされるでしょう。

さて、外食・小売業では平成17年ごろから残業代未払いを巡る問題が出てきました。残業代の未払い問題はまず従業員で表面化し、労働基準監督署などから是正勧告や指摘を受け、未払い賃金を払ってきた。平成17年3月にはビックカメラが未払い賃金30億円を払い、同年8月には日本マクドナルドが従業員の賃金算定の単位を30分から1分にしました。従業員の残業代については大半の会社が監督官庁などの指導を受けて支払いに応じてきたのです。

そして、最近、争点になってきたのが、今回の判例のような店長の扱いです。多くのチェーン企業が「店長は管理職」とし、残業代を払っていません。少子化に伴う市場低迷に加え競争が激化。店長を管理職でないと認めてしまうと大きな負担増につながるためです。

ただし、見直す動きも出てきているのです。コナカは横浜西労働基準監督署の是正指導を受け、昨年10月に3〜400人の店長全員を管理職から外しました。日本ケンタッキー・フライド・チキンも平成18年に管理職扱いを辞めました。

以下が、現在の外食・小売業の店長への管理監督者の適否及び残業代支給の現状です。

企業名 店長の扱い 残業代 備考
日本マクドナルド 管理職 不支給  
日本KFC 一般職 支給  
モスフードサービス 管理職 不支給 制度変更
すかいらーく 管理職 不支給  
ロイヤルホールディングス 管理職 不支給  
リンガーハット 管理職 支給  
ドトールコーヒー 管理職 支給  
グルメ枡屋 一般職 支給  
ユニクロ 管理職 不支給  
しまむら 管理職 不支給  
青山商事 管理職 不支給  
コナカ 一般職 支給 裁判調停合意 昨秋改正
TSUTAYA 管理職 不支給  
日本トイザらス 管理職 不支給  
ヤマダ電機 管理職 不支給  
セブンーイレブン・ジャパン 一般職 支給 平成20年3月から
ローソン 一般職 支給  
ファミリーマート 一般職 支給  

これらのうち、セブンーイレブン・ジャパンは、平成20年2月8日、日本マクドナルド訴訟判決を受け、管理職としている店長に3月から残業代を支払う方針を明らかにしました。同社の直営店に勤務する約500人が対象となる。管理職としての位置づけは変えないが、「店長手当」を減らす代わりに、残業代をすべて支払うことにするとのことです。同社は残業時間の短縮に取り組むことで人件費の増加を抑えたい、としています。

労働基準監督署における調査・監督においても、ここ最近、『管理監督者』に対する未払い残業代に関する指導が増えてきましたが、今回の事件をきっかけに、いっそう厳しくなることも予想されます。なお、『管理監督者』かどうかという判断自体は、行政である労働基準監督署は、裁判所とは違いできません。しかしながら、監督署サイドの判断で支払えという行政指導は勿論してきますし、悪質なものであれば、司法処理(刑事罰を与えるために書類送検)もしていく方針だということを聞いています。

今現在でも、会社が管理監督者と定めたから(例えば課長になったから)残業手当は支払わないという運用をしておられる企業は多いと思います。しかし、法律では通りません。労働基準法の『管理監督者』にあたるかどうかの判断要素は以下のとおりとされています。

  1. ① 労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるか
    ⇒例:社員の採用・労働条件の決定について権限を有しているか
  2. ② 名称にとらわれず実質的に管理監督者としての権限と地位を与えられているか
    ⇒例:名前だけの店長で、実際は、一般社員と同様の職務内容ではないか
  3. ③ 出社退社等の労働時間について厳格な制限を受けていないか
    ⇒例:時間拘束、時間管理をされていないか?
  4. ④ 地位に相応しい賃金面での待遇がなされているか
    ⇒例:役職手当としてある程度の金額が上乗せされているか
    (2、3万円程度では相応しいとは言えないでしょう)

外食業、小売業における店長を、法律が望むとおりの『管理監督者』とするのは、経営上ほとんど不可能でしょうし、中小企業における他の業種においても、いわゆる管理職についても、4つを満たす本当の『管理監督者』は、役員位しかいないでしょう。ですから、この管理監督者に関する今回の判決の影響は大きく、何らかの対応策を考えねばならないでしょう。

では具体的にどのように対応していくかといえば、
まずは、店長(他の業種であれば課長)の管理監督者扱いをやめることを前提に、

  • ① 仕事のプロセスの見直して無駄を省くとともに、パート等の活用による店長の労働時間削減
  • ② 特例事業場に該当する場合は、所定労働時間を、週44時間へ
  • ③ 変形労働時間制をうまく適用させる
  • ④ 賃金体系の見直し(残業代を含んだ給与体系への変更)
といったところでしょうか。

経営者にとっては、頭の痛い問題ではありますが、他方、今回の日本マクドナルド事件のように、『過重労働』という問題をはらんでいる場合も多いです。残業代の問題も然りですが、大事な人材を失ってしまったらどうしようもありませんので、真剣にこの問題に取り組んでいくべきだと考えます。