労務管理勉強室 2008年9月8日   ◆この記事は2ページあります 〔←前のページへ〕

 マイカー使用時の事故と使用者の責任(2/2)


◆業務上のマイカー使用時の事故

次は、マイカーを仕事で使用した場合の事故について具体的に考えます。
例えば、こんな事例があります。

「従業員がマイカーで取引先に行く途中、事故を起こしました。被害者は後遺症を訴えています。また、車の任意保険も切れており、本人では負担できない額です。そして、会社に請求すると言ってきました。この場合、会社と従業員の責任はどうなるのですか。」

交通事故 これについては、マイカー通勤の場合と同じように、会社の業務上でのマイカー使用に対する対応で大きく変わります。
例えば、マイカーでの通勤“のみ”を認めており、マイカーを仕事に使うことを禁止しているような場合であれば、当然、従業員が勝手に仕事に使用し、事故を起こしたら、従業員の責任です。しかし、この会社が仕事にも使用することを“黙認”していたら、判断が違います。なぜなら、認めているかどうかが不明確だからです。 この場合の判断根拠は、

  • ●ガソリン代
  • ●駐車場代
  • ●保険料等の維持費

などを会社、従業員のどちらが負担しているかということです。按分して会社が負担する場合も会社に責任が発生します。これらを会社が負担していたら、会社に責任があることになるのです。

なお、業務におけるマイカー使用に関しては、会社の管理下におかれているかどうかを判断基準とするため、通勤中や社用運転中以外でなく、なんと!昼休み時間中や日曜にマイカーを私用運転していた際の事故であったにもかかわらず、会社の責任が認められた判例(横浜地判昭和43・12・14、松江地判昭和43・2・26、東京地判昭和59.7.12〔下記判例6〕等)がありますので、要注意です。

 以上のように、業務においてマイカーを使用させていた場合には、会社が責任を問われる可能性が非常に大きいので、

  • ●会社に多少なりとも責任が発生する場合
  • ●従業員が負担できない場合

は、一旦、賠償金を支払うことが多いのです。 上の事例も同様です。
まずは、会社が【一旦】全額を支払い、従業員の負担分を本人から分割で返してもらうことになるのがほとんどでしょう。

保険 加えて申し上げると、この事例の大きなポイントは「保険の期限切れ」です。もし、任意保険が有効なら、会社も、従業員も負担額を押さえられたのです。業務にも使わせているマイカーの保険の確認をしていなかった点は、会社にとって大きな落ち度となった訳です。

◆会社の対応策は?

自動車 以上ご説明したように、マイカーの社用使用に関し裁判所は会社側に厳しい責任を負わせるという傾向があり、便利さゆえに従業員のマイカーを寸借していたようなことがありますと、死亡事故の損害賠償額も、事案にもよりますが、一般的には高額化の一途を辿っていますので、たまたま従業員の私用中の事故であっても多額の損害賠償責任を負わされることにもなりかねません。さらに、そのマイカーに任意保険が掛けられている保証もありませんし、そうなるとさらに会社負担額は大きくなります。

従って、もし、従業員がマイカー通勤をすることを認めている(黙認している)、又は、仕事にマイカーを使用することを認めている(黙認している)ならば、会社としては、以下のようなことを実施することが大切です!

  • (1)日頃から従業員のマイカーにつき公私の別を明確にすることにより会社に無用の責任が及ばぬよう、就業規則(マイカー使用規程など)を整備する (通勤使用を許可する場合は、その交通費の支払方も考慮する)
  • (2)車検証(=自賠責保険の確認)、任意保険の保険証券のコピーを会社に保存する。
  • (3)任意保険の契約内容が一定要件以上の設定のもの(例:対人保障…無制限、対物保障…5000万円以上など)しか、マイカー使用を認めない。
  • (4)「保険期限の管理表」を作成する。

 これらを行えば、会社は相当の責任を果たしていることになります。事故防止にも積極的に関与したことになります。結果、会社の負担割合が減る可能性もあるのです。
従業員が事故を起こしたら、会社にとっても大きな損失です。もちろん、お金の問題だけではありません。精神的にもダメージが大きいのです。場合によっては、名前が世にでることによって、社会的なダメージを受けることもあります。
当事者の従業員だけでなく、その対応に当たる人事担当者や経営陣も大変です。多くの時間を取られ、通常の仕事をストップしなければいけません。裁判にでもなれば、数年単位の時間が取られてしまいます。
  もちろん、事故を100%防ぐことは難しいです。しかし、事故の予防に努めることはできます。何でも同じですが「事前対策」することは大切ですね。その方がお金、時間、労力がかからないのですから。

◆マイカー使用時の事故に関する参考判例

判例1.社有車を従業員が私用のために使用していて会社の責任を認めた例

 従業員が事務所内の机の引出しの中に保管してあったキーを無断で持ち出し、営業のために従業員に使用させていた車両を私用運転中に起こした事故について、その運行は企業の支配下にあったものとして企業に運行供用者責任を認めた。(名古屋地裁 昭和56年7月10日判決)

判例2.社有車による泥棒運転中の事故について会社の責任を認めた例

 従業員がドアをロックせずキーをつけたまま車を放置しておいたところ、通りがかりの者が運転して事故を起こした場合について、従業員の放置行為と事故との間に因果関係があり、かつ、保管上の過失があるとして、使用者責任を認めた。(京都地裁 昭和56年9月7日判決)

判例3.マイカーを業務に使用していて会社の責任を認めた例

 自動車販売会社のセールスマンが、会社に申告した以外のマイカーをセールス用にも使用していた場合、非申告車であってもほぼ毎日セールス用に使用していたことから、会社はその運行により利益を得、当車両に対し十分な管理・監督を及ぼしうる地位にあったとして、会社に運行供用者責任を認めた。 (名古屋地裁 昭和48年7月9日判決)

判例4.マイカー通勤途上の事故で会社の責任を認めた例

 従業員がマイカー通勤途上で起こした事故について、通勤は原則として業務の一部を構成するものとして業務執行性を認め、さらに通勤手当を支給していたことから会社のマイカー通勤への容認と評価し、会社に使用者責任を認めた。 (福岡地裁 平成10年8月5日判決)

判例5.マイカー通勤途上の事故で会社の責任を認めなかった例

 社員のマイカーによる通勤途上の事故につき、会社は駐車場を第三者から借りて使用させていたが、駐車料金は利用者に分担して負担させており、日頃、そのマイカーを社用に利用したこともなく、燃料費や維持費を支給したこともないことから、そのマイカーに対して運行支配や運行利益があったとはいえないとして、会社に運行供用者責任を認めなかった。 (鹿児島地裁 昭和53年10月26日判決)

判例6.私用中の事故だが社員自家用車制度のマイカーのため会社の責任を認めた例

 従業員の夏季休業中における事故であるが、

  • ①社員自家用車制度により購入した。
  • ②車は所有権留保され会社の名義であった。
  • ③業務が60%、私用が40%で業務割合が多かった。
  • ④毎月ガソリン代が支給されていた。
として、会社の責任を認めた。 (東京地裁 昭和59年7月12日判決)

判例7.通勤車両に任意保険の加入を定めた社内規定を有効と認めた例

 会社構内への通勤車両の乗り入れ、および駐車場利用の要件として、自動車保険(任意対人賠償保険)の加入を定めたマイカー通勤管理規定を有効と認めた。 (最高裁 昭和53年12月12日判決)