労務管理勉強室 2008年9月8日   ◆この記事は2ページあります

 マイカー使用時の事故と使用者の責任(1/2)


マイカー 今回は、業務もしくは通勤に従業員のマイカーを使用させた場合の会社側のリスクについて考えます。
 マイカー通勤の従業員が多い会社や、従業員のマイカーを営業車として使っておられる会社は沢山あります。
 そして、その車が通勤中、営業中に事故を起こすこともあります。そして、その上司や監督者の悩みの種にもなっているようです。一旦、事故が起きてしまうと運転者は勿論その使用者にも賠償責任が及ぶことがあるからです。
 具体的には、会社側としては、(狭義の)『使用者責任』(民法715条)、人身事故の場合にはさらに『運行供用者責任』(自賠法3条)に基づく損害賠償責任を問われるかどうかが問題となります。
(狭義の)使用者責任(民法715条)と、運行供用者責任(自賠法3条)については以下の通りです。

◆民法715条による狭義の『使用者責任』とは

 民法715条による『使用者責任』は、「ある事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行につき第三者に加えたる損害を賠償する責任に任ず」とありますので、「事業の執行」中に事故を起こした場合に問題となります。そして、人身、物損、いずれの事故にも適用されます。
 会社に出勤したあと仕事のためにマイカーを運転して事故を起こせば使用者の責任が問われますが、通勤途上であれば仕事に着く前ですので、原則として、使用者が責任を負うことはないのです。しかしながら、マイカー通勤時の事故に対して、会社に使用者責任が問われた判例もない訳ではないので要注意です。
 
 なお、民法715条にいう「被用者」とは、判例によれば、報酬の有無・雇用期間の長短を問わず、使用者の選任によってその指揮監督のもとで使用者の経営する事業に従事している者とされています。
 また、「事業」も「仕事」と同じと考えてよく、使用者と被用者との契約はどんな契約でも構いません。必ずしも有効な契約であることを要しないとされています。
 従って、口約束での請負契約であっても、実態を見て使用者の指揮監督のもとで働いているような場合には、その請負業者の事故に対して、使用者責任が発生する可能性があるということです。

◆自賠法3条による『運行供用者責任』とは

自動車 自賠法は、車社会に対応するため昭和30年に新たに制定された法律ですが、同法3条には「自己のために自動車を運行の用に供する者はその運行によって他人の生命又は身体を害したときはこれによって生じた損害を賠償する責に任ずる」とあり、いわゆる『運行供用者責任』を定めています。
 この条文においては、「他人の生命又は身体を害したときは」と、規定されていますので、人身事故のみに適用されます。
 加えて、民法715条のように「事業の執行につき」の文言はありませんから、マイカー通勤における事故についての会社の責任については、主として自賠法3条との関連で考えることとなります。
そして運行供用者としての責任を負うには「運行支配」と「運行利益」が必要とされています。

『運行供用者責任』が認められる場合は、以下のような場合です。

①工事請負会社の従業員が、マイカーを運転して作業現場から寮へ帰る途中の交通事故につき、「会社は寮から作業現場への通勤にマイカー使用を黙認しこれにより事実上運行利益を得ており、又会社の寮に居住させ、会社に隣接する駐車場も使用させていることから直接・間接に加害者の運行を指揮監督し得る地位にあり運行支配も有する。」(最高裁判平成元.6.6)
②会社の従業員が単車を運転し、工事現場から自宅に帰る途中の事故につき、「加害者は単車を通勤に使用するほか、上司の指示あるときは同僚を同乗させることが多く、会社は走行距離に応じたガソリン手当及び損料等の趣旨で単車手当を支給していた等の事情あるときは、会社は単車の運行について運行支配と運行利益を有する。」(最高裁判昭和52.12.22)
③ストライキのため通勤電車が止まったため会社に連絡のうえバイクで出勤した従業員が通勤の途中に起こした交通事故について会社は自賠法3条の責任がある。(東京高裁判昭和63.6.29)

 これらの判例に示すように、『運行供用者責任』は、民法715条の『使用者責任』より、幅広くその責任を問われると言われています。
 会社が『運行供用者責任』を免れるためには、以下の要件がすべて揃っている必要があり、それを会社側が立証できなければなりません。

  • ①自己の運行や管理に過失がなかったこと
  • ②被害者や第三者に故意または過失があったこと
  • ③マイカー等の車両に欠陥がなかったこと


◆『使用者責任』(民法715条)と『運行供用者責任』(自賠法3条)

 裁判所では、上記1.2.両責任ともに共通して、次のように“マイカーをどの程度会社のために使用させているか”が大きな要素として、その責任度合いを判断します。

①従業員がマイカーを通勤以外の社用には一切使用せず、会社も業務への使用を禁止しているような場合=純通勤用使用
⇒たとえ会社が駐車場所を提供しているような場合でも、原則として、会社は従業員のマイカーの事故に関し、責任を負わないことになります(東京地判昭和40・3・3、東京地判昭和42・11・29等)。ただし、異なる判例もあるので注意が必要です。
②会社が従業員のマイカーを積極的に提供させ、業務に使用させている場合=提供的社用使用
⇒会社も責任を負わされることになるのが一般的です(大阪地判昭和42・6・30等)。
③以上の中間ともいうべき、従業員が個人的な考えに基づきマイカーを社用に使用している場合=便宜的社用使用
⇒一概に決することは困難であり、マイカー使用と会社業務との関連性が密接かどうかによって、会社が責任を負うか否かをケース毎に判断する他ないものと考えられています。

その場合、具体的には、

  • ●マイカーの社用使用の継続性の有無
  • ●会社が日頃からマイカーの社用使用を承認又は黙認していたか、
  • ●会社がマイカーの使用につき便宜(ガソリン代・維持費・保管場所等)を供与していたか
 等の事情を総合して、責任の有無が決められることになります。



◆マイカー通勤時の事故

交通事故 通勤時にマイカーを使用していた場合の事故について、さらに具体的に考えます。
 マイカー通勤途上の事故について、原則としては、会社に賠償責任はないように思われます。しかし、「例外」が存在しうるのです。会社は『運行供用者責任』を負う可能性があるのですが、すでに上でも記載しましたように、この従業員が、「自己(=会社)のために自動車を運行の用に供する者」であれば、会社に『運行供用者責任』が発生する可能性があるのです(ただし、人身事故の場合)。
 そもそもマイカー通勤は、その車を所有しているのは従業員だから会社には関係ないと思われるかもしれませんが、「運行支配」や「運行利益」は広範囲にわたって認められうるものです。

 『運行供用者責任』が発生するかどうかを考える上では、このマイカー通勤がどのような経緯で行われているかを考えます。 

  • ①会社がマイカー通勤を推奨している
  • ②なんとなくマイカー通勤が行われている(黙認されている)
  • ③禁止されている(特別な許可を得た場合はマイカー通勤が許される場合もあり)

 ①の場合は、マイカー通勤を推奨までしているのだから、会社が何らかの利益(運行利益)を得ていると判断される可能性があり、よって、運行共用者性が認められる=『運行供用者責任』が発生しうる、と考えられます。
 ②の場合も、結局マイカー通勤を認めていることになり、暗黙のままマイカーでの通勤を推奨していると判断される可能性があります。推奨しているのであれば、①と同様に、会社がマイカー通勤による何らかの利益を得ていると判断される可能性が出てくる訳です。
 ③のように、本来はマイカー通勤が禁止であること、そして従業員からの特別の申請によって初めてマイカー通勤を許可するようにしておれば、会社はマイカー通勤による利益を得ていないと主張することができます。
 
 しかし ③の許可制を採っていても、なお『運行供用者責任』を問われてしまうような場合もあるのです
 それは、交通費の払い方が考慮される場合があるのです。交通費をどのように支払っているかで会社がマイカー通勤に対して積極的であるか否か、つまりは(暗に)推奨しているか否かを類推されることがあります。例えば交通費として通勤にかかったガソリン代を支払っていたとすると、これは会社がマイカー通勤に対して積極的であると判断される可能性が強くなります。1Kmあたりの交通費単価を決めておいて、家から会社までの距離をかけたものを一日の交通費とする方法もこれに準じます。

 これに対してマイカー通勤をしていない人と同様に公共の交通機関を利用したものとして交通費を支給しておけば、これについては、会社はマイカー通勤に対して消極的な態度であると取られる可能性が強くなります。このように交通費を規定しておけば、運行供用者責任を問われる可能性は、減少するであろうと考えられています(勿論絶対的基準ではありませんが)。

 すなわち、マイカー通勤での事故について、会社側が責任を問われたくなければ、「原則マイカー通勤を禁止すること、そして、交通費の支払い方にも注意すること」なのです。

 
 なお、民法715条の『使用者責任』については原則としては通勤時には適用されないと上述しましたが、自動車の運転という行為が、会社の事業の執行に属すると認められるかによって判断され、マイカー通勤時の事故であっても、使用者責任を認めた裁判例もあります。
 さらには、マイカー通勤を容認しているだけで、会社の『使用者責任』を認めた裁判例〔次ページの判例4〕もあるほどです(福岡地判平成10.8.5)。