▼36(サブロク)協定について
割合い簡単に考えて適当で構わないとお考えの事業場も見受けられますが、きちんと協定書(届)を作成しようとすると、気をつけなければならない点が意外と多いのが36協定です。 |
Q1:36協定の書式は決まってますか? また記載すべき必要事項は何ですか?
Q2:36協定に記載すべき必要事項とは、具体的にはどのようなことですか?
Q3:監督署で36協定の雛形を貰ったら、協定届となっていました。協定届と協定書とは違うものなのでしょうか?
Q4:36協定に本社一括という制度があると聞きました。各地にある支店の協定も本社分と一括して出して良いということでしょうか?
Q5:当初は、休日労働はないとして協定を結び、協定を結び所轄監督署に届けた後になって、休日労働の必要性がでてきた。この場合、36協定を締結しなおし再度監督署へ提出する必要があるでしょうか?
Q6:毎年、協定を締結し、届を監督署に提出するのが面倒です。協定の有効期間を例えば5年にするとか、毎年自動更新とするといったことはできないですか?
Q7:36協定を締結する際に、どのような点に注意しなければなりませんか?
Q8:36協定に定めれば労働者に時間外労働を命じることができるでしょうか?
Q9:36協定では、時間外労働ができる時間の上限が定められていると聞きます。それはどの程度なのですか?
Q10:限度基準を遵守しなくてもよい業種があると聞きましたが、どのようなものがあるのですか?
Q11:特別条項付き協定というものがあると聞きました。どのような時に必要な協定なのでしょうか?
Q12:特別条項の内容として定めるべき事項に何があるのでしょうか? また、平成22年4月施行の労基法改正により、定めるべき事項が追加されたとききましたが、どのようなことが変わったのでしょうか?
|
Q1:36協定の書式は決まってますか? また記載すべき必要事項は何ですか? |
A1:労働基準監督署でも雛形を配布しておりますが、実は決まった様式はありません。必要事項さえ書いてあれば、どのような書式であってもかまわないのです。締結事項としては以下の通りです。
(1)時間外(休日)労働をさせる必要のある具体的事由
(2)時間外(休日)労働をさせる必要のある業務の種類
(3)時間外(休日)労働をさせる必要のある労働者数(満18歳以上の者)
(4)1日、1日を超え3ヶ月以内の期間(起算日)、1年間について延長することができる時間(起算日)または、労働させることのできる休日
(5)協定の有効期間
また、その他記載必要事項としては、事業の種類、事業の名称、事業の所在地、協定の当事者である労働組合の名称または労働者の職名・氏名、協定の当事者の選出方法、使用者の職名・氏名(記名押印もしくは直筆署名)、協定の成立年月日です。
適当に書いて提出しておけばよいと思っている方も多いようですが、上記の内容に不備があれば監督署では受け付けてくれません。 |
|
Q2:36協定に記載すべき必要事項とは、具体的にはどのようなことですか? |
A2:(1)時間外(休日)労働をさせる必要のある具体的事由
労基法36条が規制しているのは、通常予想される臨時の必要のある場合についてと考えられますので、協定においては、できる限り具体的な事由を定めるべきである。具体的には、「納期の切迫、受注の集中などによる一時的な生産量の増大のため」とか「月末棚卸しのため」といった具合に定める必要があるのです。
(2)時間外(休日)労働をさせる必要のある労働者数(満18歳以上の者)
時間外または休日労働をさせることができる労働者の数を協定することになりますが、協定締結後に若干の労働者数の変更があったとしても、特段の事情がない限り、当該協定をもって時間外労働をさせることができると解されます。
(3)1日、1日を超え3ヶ月以内の期間(起算日)、1年間について延長することができる時間(起算日)
1日の時間外労働時間の最高限度を定めなければなりませんが、さらに、1日を超える一定期間の時間外労働時間の最高限度も必ず協定しなければならないとされています。
一定期間の始期をいつにするかも定めを置くべきですが、協定に起算日の定めがない場合は、労使慣行等から別意に解されない限り、協定の有効期間の初日を起算日とするものと解されます。
一定期間についても同様で、起算日から有効期間の末日までを順次当該期間ごとに区切られる期間とされています(昭63.3.14 基発150号・婦発47号、平11.3.31 基発168号)。
1日を超える一定期間については、1週間、2週間、4週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、1年間と協定によって定められるものですが「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平10.12.28労告154)において、「当該一定期間は1日を超え3箇月以内の期間及び1年間としなければならない」と示されており、延長時間の限度が示されています。
(4)労働させることができる休日
休日労働については、35条の規定による休日のうち労働させることができる休日につき協定しなければなりませんが、一定期間の中で労働させることができる休日の日数という形で協定しても差し支えありません。また、36協定の届出様式において休日労働の始業および終業の時刻が記載事項とされている関係で、これも協定事項となると解されますが、この場合、当該休日において労働させることができる時間数の限度という形で協定しても差し支えありません。 |
|
Q3:監督署で36協定の雛形を貰ったら、協定届となっていました。協定届と協定書とは違うものなのでしょうか? |
A3:協定書は、労使の協定ですので、当然、使用者、労働者代表両方の署名や押印を必要します。また、通常条文形式になっているものが多いと思われます。しかし、労働基準監督署としては、36協定について、必ずしも協定書自身を提出することを要しておらず、必要事項が記載されており、労働者代表の押印があれば、”協定届”のみを提出することで足ります。実際、配布しているのは、表形式になっている協定届の雛形です。
なお、労働者代表の押印があれば、協定届の書面を協定書とすることができ、別途協定書を作成する必要はありませんし、逆に、協定書に届け出るべき必要事項がすべて記載してあれば、協定書のみを提出しても構いません。 |
|
Q4:36協定に本社一括という制度があると聞きました。各地にある支店の協定も本社分と一括して出して良いということでしょうか? |
A4:協定事項のうち、「事業の種類」、「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」、「労働者数」以外の事項が同一であれば、本社一括届出が可能です。加えて、「使用者の職名及び氏名」、さらに「協定の当事者」も同一である必要があるため、結局過半数労働組合がある事業所でないと本社一括はできません。当該労働組合員が過半数を超えている事業所の協定届は本社に一括して届けることができることになります。 |
|
Q5:当初は、休日労働はないとして協定を結び、協定を結び所轄監督署に届けた後になって、休日労働の必要性がでてきた。この場合、36協定を締結しなおし再度監督署へ提出する必要があるでしょうか? |
A5:協定の締結しなおしが必要となります。なおその他締結後に変更があった場合の締結しなおしの必要性については次のようになります。
・業務の種類・・・必要
・労働者の数・・・通常想定される変動=不要
・通常想定されない変動・・・必要
・延長させることのできる時間・・・必要
・移転などによる事業所の住所の変更・・・不要
・退職などによる使用者、労働者代表の変更・・・不要 |
|
Q6:毎年、協定を締結し、届を監督署に提出するのが面倒です。協定の有効期間を例えば5年にするとか、毎年自動更新とするといったことはできないですか? |
A6:36協定の有効期間については、1年以上であれば特に上限はありません。しかしながら、監督署への届については、毎年見直す必要があるという観点から、1年ごとに提出するよう指導がされます。また自動更新も認められますが、監督署の届については、自動更新の届(書式なし)をすれば足ります(昭29.6.29 基発355号)。協定を締結することと、監督署へ届け出るということは別個に考えるということになります。
なお、過半数労働組合との労働協約は有効期間の上限が3年と決まっています。もちろん、この場合であっても届については、1年ごと提出すうように指導を受けます。 |
|
Q7:36協定を締結する際に、どのような点に注意しなければなりませんか? |
A7:当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、なければ、労働者の過半数を代表する者と書面による協定を締結します。
この労働者代表の選出については、次のように定められています。
更に、労働基準監督署長宛の届出が必要であり、期間についても、定めをおく必要があり、無期限とすることもできません。期間については、
こちらのQ&Aをご参照下さい。 |
|
Q8:36協定に定めれば労働者に時間外労働を命じることができるでしょうか? |
A8:36協定の締結により、使用者は、適法に労働者を労働させることの枠を広げる効果が認めらます。すなわち、使用者は法定労働時間をこえる労働をさせても罰せられないという免罰的効果が認められます。
しかし、個々の労働者に対して時間外・休日労働義務が発生するものではありません。労働者に労働義務が発生し、使用者が労働者に対して時間外・休日労働を命じることができるためには、労働契約・就業規則・労働協約などにより別途労働者の労働義務の根拠が認められることが必要です。 |
|
Q9:36協定では、時間外労働ができる時間の上限が定められていると聞きます。それはどの程度なのですか? |
A9:実際上の必要性から、36協定の締結という手続的要件を付して時間外・休日労働を認めたものの、ただ手続きさえ踏めば時間外・休日労働を無制限にできるとするのは妥当ではなく、時間外・休日労働はあくまでも臨時的なものとしてなされるべきであるという考え方に基づいて、時間外労働の適正をはかるべく、厚生労働大臣が時間外労働の限度に関する基準(「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」=「限度基準」)が定められています。
よって、「限度基準」は、実は法律上(労基法上)の規定ではなく、労働省告示として発表されたものなのです。とは言っても、監督署に、この基準を超えた時間を記した36協定を提出すれば、指導を受けることになります。
これによれば、延長できる時間の限度基準は以下のとおりです。
1週間 |
15時間(14時間) |
2週間 |
27時間(25時間) |
4週間 |
43時間(40時間) |
1ヶ月 |
45時間(42時間) |
2ヵ月 |
81時間(75時間) |
3ヵ月 |
120時間(110時間) |
1年間 |
360時間(320時間) |
※( )は、1年単位の変形労働時間制の場合 |
|
Q10:限度基準を遵守しなくてもよい業種があると聞きましたが、どのようなものがあるのですか? |
A10:次の「事業」や「業務」です。
上記のうち「業務」である場合は、いわば職種で捉えますので、事業所自体の業種は関係ありません。例えば、製造業の中で、トラックによる製品配送業務を担当している労働者は、②の自動車の運転の業務となり、限度基準の適用除外となります。ただし、車を使う営業マンについては、運転業務は付随業務なので、相当しません。 |
|
Q11:特別条項付き協定というものがあると聞きました。どのような時に必要な協定なのでしょうか? |
A11:事業や業務の態様によっては、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が生じる場合もあります。そこで、限度基準は、時間外労働は限度時間を超えてはならないとことを原則とした上で、「あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長期間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る。)が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定める場合は、この限りではない」とし、臨時的に、限度時間を超えた時間外労働がなされることを認められます(特別条項付36協定)。 |
|
Q12:特別条項の内容として定めるべき事項に何があるのでしょうか? また、平成22年4月施行の労基法改正により、定めるべき事項が追加されたとききましたが、どのようなことが変わったのでしょうか? |
A12:特別条項を設定した36協定においては、「特別の事情」「労使当事者間において定める手続」「限度時間を超える一定の時間」を定めなければならなりません。
「特別の事情」とは、時間外労働をさせる必要のある具体的事由の下において生じる特別の事情をいうものであり、労使当事者の協議により、可能な限り具体的に定めなければならないとされています。
2003年に告示改正(平15.10.22 厚労告355)がなされ、「特別の事情」は臨時的なものに限るとされました。「臨時的なもの」とは、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものをいいます。
この場合、次の要件を満たしていることが必要です。
- ■原則として延長時間(限度時間以内の時間)を定めること
- ■限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情をできるだけ具体的に定めること
- ■「特別の事情」は、次の①、②に該当するものであること
- ①一時的または突発的であること
- ②全体として1年の半分を超えないことが見込まれること
- ■一定期間の途中で特別の事情が生じ、原則として延長時間を延長する場合に労使がとる手続きを、協議、通告その他具体的に定めること
- ■限度時間を超える一定時間を定めること
- ■限度時間を超えることのできる回数を定めること
特別の事情の例
臨時的と認められるもの
- 予算、決算業務
- ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
- 納期のひっ迫
- 大規模なクレームへの対応
- 機械のトラブルへの対応
臨時的と認められないもの
- (特に事由を限定せず)業務の都合上必要なとき
- (特に事由を限定せず)業務上やむを得ないとき
- (特に事由を限定せず)業務多忙のとき
- 使用者が必要と認めるとき
回数の定め方の例
特別条項付き36協定には、1日を超え3ヵ月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる回数を協定することが必要とされています(平15.10.22 基発1022003号)。
▼限度時間を超える期間が1年の半分以下になるような、回数の定め方の例
なお、上記のように1ヶ月当たりの原則超えの延長時間を定めても、1年間についての原則超え延長時間についても定めないと、年間を通じればもともとの延長時間(大概は360時間でしょう)を超えることはできませんので、要注意です。
時間外労働を行わせる場合の手続き特別条項に基づく特別延長時間となる時間外労働を行わせる場合の手続きは、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、当該特別の事情が生じたときに必ず行わなければなりません。したがって、協定した手続きを踏まずに原則の延長時間を超えて時間外労働を行わせた場合には、労基法違反となるのです。なお、手続きについての協定は、「労使協議を経る」などが一般的といえます。
限度時間を超える一定の時間「限度時間を超える一定の時間」については、時間的な限度は示されておりません。極端に言えば、何時間でも構わないのです。しかし、その一方で、労働者の安全衛生の問題がでてきますので、あまりに長時間を設定することは、好ましくないのは勿論です。労使当事者間の協議にゆだねられているが必要最小限のものとするよう、労使間で十分に協議がなされるべきでしょう。
平成22年4月施行の法改正により、定めるべき追加事項改正労基法では、「特別条項付き協定を締結する場合には、それぞれについて限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めなければならない」とされました。
さらに、限度基準第3条第3項において、「労使当事者は、特別条項付き協定において限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めるに当たっては、時間外労働について25%を超える率とするように努めなければならないこと。」とされています。これは今のところ努力義務ですので、従来通り25%でも構いません。構わないのですが、25%と定めたなら定めたように、記載しなければならないのです。
▼以上から、特別条項付労使協定の定め方の例は、以下のようになります。
一定期間についての延長時間は1ヶ月45時間、1年360時間とする。
ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、6回を限度として1ヶ月60時間まで延長することができ、1年450時間まで延長することができる。
なお、延長時間が1ヶ月45時間を超えた場合又は1年360時間を超えた場合の割増賃金率は40(25)%とする。
(ただし、1ヶ月60時間を超えた場合の割増賃金率は、60%とする。)
【留意点】
①( )部分は、もし記載しないとしても、改正法で制限されますため、記載の無い雛形も多く見られますが、就業規則には記載が必要な事項ですので、労使協定という意味からは、記載しておいた方が好ましいとされています。
② 1ヶ月45時間を超えた場合の割増賃率と、1年360時間を超えた場合の割増賃金率は、違う数値としてもよいです。ただし、1ヶ月45時間を超えて、且つ360時間を超えた場合の割増賃率については、特段の定めがなければ、高い割増賃金率が採用されることになります。
例)1ヶ月45時間超 40% 1年360時間超 30%
・・・1年360時間を超えて、なおかつ1ヶ月45時間を超えた時間外労働については、45%が適用される。
▼割増賃率の猶予がなされる中小企業についても、特別条項付き協定を締結する場合は、
限度時間を超えた割増率を記載する必要があります。
一定期間についての延長時間は1ヶ月45時間、1年360時間とする。
ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、6回を限度として1ヶ月60時間まで延長することができ、1年450時間まで延長することができる。
なお、延長時間が1ヶ月45時間を超えた場合又は1年360時間を超えた場合の割増賃金率は25%とする。 |
|
|