人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼労災(給付)について

Q1: 労災には、どのような給付があるのですか?

Q2: 知り合いが労災にあったのですが、その知り合いの会社は労災保険未加入だそうです。保険給付は行われないのでしょうか?

Q3: 実際の賃金と労災給付との差額を会社が負担した場合、休業補償給付が支払われなくなることがあるのでしょうか?

Q4: 労災による休養期間中に、給料が支払われました。この給料とは別に労災給付も受けられると聞いたのですが本当ですか?

Q5: マイカーで通勤している社員が、帰宅時に交差点で衝突事故を起こし重傷を負ってしまいました。警察の調べによれば、事故原因は、その社員の居眠り運転による信号無視と判明しました。こうしたケースでも通勤災害と認められるのでしょうか?

 

Q1: 労災には、どのような給付があるのですか?

A1:労災には①医療保障の給付、②本人の生活保障の給付、③遺族の生活保障の給付、④その他の給付の4つがあります。それぞれの詳細については、労災給付一覧(PDF)をご覧ください。

 

Q2: 知り合いが労災にあったのですが、その知り合いの会社は労災保険未加入だそうです。保険給付は行われないのでしょうか?

A2: 労働者を1人でも使用していれば労災保険の適用事業となり、事業主の意思にかかわりなく加入が義務付けられる「当然適用事業」と、保険加入が事業主の意思に委ねられいる「暫定任意適用事業」の二つに分けられます。
現在「暫定任意適用事業」に該当するのは個人経営の農林水産業の事業で、その使用する労働者数が5人未満である事業の一部など限られたもののみであり、これらに該当する事業が労災保険に加入していない場合、使用されている労働者は労災保険給付を受けることができません暫定任意適用事業に当たる農業の事業主自身が労災保険に特別加入している場合は、その事業全体が当然適用事業となる)。 
上記のとおり、暫定任意適用事業とされるごく一部の事業を除いた一般的な事業は、当然適用事業とされていて、事業主の意思にかかわりなく保険関係が成立することとなり、労働者は事業主の保険関係成立の手続きが済んでいるかどうかに関係なく、労災保険の給付を受けることができる。
このため、仮に労災保険の保険関係成立届の提出が済んでいない間に事故が起きた場合、この間は保険成立しているが、事業主が手続きを怠っていたという扱いになります。
事業主の故意または重大な過失による保険関係成立届未提出の期間中に労災事故が発生した場合、これらについての保険給付に要した費用の一部を事業主から徴収することとなっています。
この費用徴収制度については、労災保険未手続事業の早期解消を促すため、通達により平成17年11月1日から以下のように改められました(平17.9.22 基発0922001)。
@保険関係成立届の提出について、行政機関から指導等を受けていたにもかかわらず、手続きを行わない期間中に労災が発生いた場合
⇒事業主が「故意」に手続きを行わないものとして認定し、その災害に関して支給された保険給付額の100%を徴収
A保険関係成立届の提出について行政機関から指導は受けていないが、労災保険の適用事業となった時から1年を経過しても手続きを行っていない間に労災が発生した場合
⇒事業主が「重大な過失」により、手続きを行わないものと認定し、その災害に関して支給された保険給付額の40%を徴収
なお、上記の費用徴収の対象は、療養開始後3年間に支給されるものに限られています。また、療養(補償)給付および介護(補償)給付は対象から除かれます。

 

Q3: 実際の賃金と労災給付との差額を会社が負担した場合、休業補償給付が支払われなくなることがあるのでしょうか?

A3:労働者が業務上の傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けることができない場合、労災保険から休業補償給付が支給されます。休業補償給付を受けるためには、次の条件を満たすことが必要があります。
@業務上の負傷または疾病であること。
A療養のため労働することができないこと
B賃金を受けないこと
以上の要件を満たした場合、休業4日目から給付基礎日額の60%が支給されます。また、休業特別支給金として、給付基礎日額の20%が支給されます。

休業補償給付を受けるための要件であるB「賃金を受けない」とは、「賃金の全部を受けない」日のみならず、「賃金の一部を受けない日」を含み、この場合の「一部を受けない日」とは、次に該当する日とされています。
@全部労働不能であって、平均賃金の60%未満の金額しか受け取れない日
A一部労働不能であって、その時間についてまったく賃金を受けないか、平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金との差額の60%未満の金額しか受けない日

つまり、業務上の災害により、完全に休業する場合の「賃金を受けない日」というのは、「賃金の60%未満の額しか受けられない日」ということになり、例えば40%または30%の支給がされる場合についても、賃金を受けない日とされるため、休業補償給付は全額支給されるのです。
このため、ご質問のように実際にこれまで受け取っていた賃金と労災からの給付の差額を会社が支給したとしても、60%を超えることはないでしょうから、休業補償給付は全額支給されることになります(【図表1】参照)。



一方、「所定労働時間の一部について労働し、その時間分の賃金については全額支給された場合」の休業補償給付は、「給付基礎日額から実労働に対して支払われる賃金の金額を控除した額の60%」が支給されます。(【図表2】参照)


(算定に当たり給付基礎日額に最高限度額が適用される場合は、いったん最高限度額を適用しないものとして計算し、一部受けた賃金を控除した残額に最高限度額を適用させる)。

 

Q4: 労災による休養期間中に、給料が支払われました。この給料とは別に労災給付も受けられると聞いたのですが本当ですか?

A4: 労災保険では、業務上の傷病により休業した期間中(休業4日以上の場合)について、「休業補償給付」として1日につき給付基礎日額(*)の60%、「休業特別支給金」として同じく1日につき給付基礎日額の20%が支給され、合計すると、給付基礎日額の80%が給付されることになります。
ご質問のような、「全部休業」(所定労働時間の全部について労務不能)時に、その日の賃金が支払われていた場合でも、その金額が「平均賃金日額の60%未満」であれば、上記の休業補償給付と休業特別支給金を合わせた給付基礎日額の80%が支給されます。
また、「一部休業」(休業の一部を就労した場合)では、労働に対する賃金を控除した額に基づいて計算し、支給されることになります(この点については、業務外での傷病手当金とは異なるので要注意です。

 

Q5: マイカーで通勤している社員が、帰宅時に交差点で衝突事故を起こし重傷を負ってしまいました。警察の調べによれば、事故原因は、その社員の居眠り運転による信号無視と判明しました。こうしたケースでも通勤災害と認められるのでしょうか?

A5: 被災者は、事故を起こしたとはいえ、就業後、通常と同様にマイカーで通勤し、その帰路に交通事故で負傷したものです。すなわち、「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復する」ものであることは明らかですので、通勤災害と認められることは、ほぼ間違いないでしょう。
ただし、ここで1つ考えなければならない点は、事故の原因が被災者の居眠り運転による信号無視だったということです。こうした本人の過失による災害(業務災害及び通勤災害)については、労災保健法では支給制限の規定を設けています。
支給制限が行われるのは、次の①〜③に該当する場合です。

  • ①労働者が故意に負傷、疾病、障害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせたとき。
  • ②労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により負傷、疾病、障害もしくは死亡もし くはこれらの原因となった事故を生じさせたとき。
  • ③正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより負傷、疾病もしくは障害の 程度を増進させ、もしくはその回復を妨げたとき。

①は、労働者が結果の発生を意図した故意によって事故を発生させた場合で、一切の保険給付は行われません。言い換えれば、こうしたケースについては、業務上災害あるいは通勤災害とは認めないということです。具体例としては、労働者の自殺がこれに該当します。

②の「故意の犯罪行為」とは、事故の発生を意図した故意はないが、その原因となる犯罪行為が故意によるものをいうとされ、また「重大な過失」とは、事故発生の直接の原因となった行為が労働基準法や鉱山保安法、道路交通法などの法令上の危害防止に関する規定で、罰則の付されているものに違反すると認められる場合について適用がなされます。
この場合、保険給付の都度、所定給付額の30%の割合で支給が制限されます。その制限の対象となるのは、休業補償給付または休業給付、障害補償給付または障害給付(再発にかかるものは除かれます)です。
支給制限の期間は、休業補償給付または休業給付については支給事由の存する期間で、障害保障給付または障害給付については当該障害の原因となった傷害について療養を開始した日の翌日から起算して、3年以内の期間において支給事由の存する期間となっています。

③の規定は、労働者に適正な診療を受けさせることを目的とするものですから、あくまで労働者の療養指導が第一とされています。
そこで今回のケースですが、事故の原因が被災者の居眠り運転による信号無視ということですので、前記②に該当するものといえます。

したがって、ご質問のケースは、通勤災害に認定されることになると思われますが、休業給付及び障害給付については、30%減額支給される可能性が高いでしょう。