人事労務担当者のための労務相談Q&A


▼給与計算について

Q1: 当社は、現在、賃金の計算期間が前月16日〜当月15日、支払日が当月25日となっていますが、締切日から支払日までの期間に余裕を持たせるため、計算期間を当月1日〜当月末とし、支払日を翌月25日に変更したいと思っています。この場合の留意点について教えて下さい。

Q2: 給与計算で間違えたために、過払いをしてしました。翌月の給与支払いで精算することは、賃金の全額払いに抵触するのでしょうか?


Q1:当社は、現在、賃金の計算期間が前月16日〜当月15日、支払日が当月25日となっていますが、締切日から支払日までの期間に余裕を持たせるため、計算期間を当月1日〜当月末とし、支払日を翌月25日に変更したいと思っています。この場合の留意点について教えて下さい。

A1:給与締切日と支払日を変更しても、従業員が退職までに受け取る給与額に変更はありませんので、就業規則(賃金規程)の変更手続を適正に行えば、「賃金の締切及び支払の時期」を変更することに特に問題はありません。しかし、以下のような留意点があります。

(1)変更月の支給額が半分になることに配慮する
賃金締切日を変更する場合、支払日に変更がなければ変更した月の固定給与が少なくなり(半分になる)、一時的に従業員に不利益を与えるおそれがあります。質問のケースでみると、変更前なら当月25日に支給されるべき当月1日〜15日までの給与が、締切日の変更によって翌月25日支払分にまわるため、当月の支給額は前月16日から末日までの半月分しか支払われなくなり(図参照)、従業員の生活設計が大きく狂うからです。

給与締切日と支払日の変更
従って、変更に伴うダメージを最小限に抑えるため、①変更するまでの予告期間を長くとり、備えをしておいてもらう、②変更月を賞与支給月に合わせ、生活費を確保できるようにする、③無利子での貸付を行う、など何らかの移行措置を講ずるべきでしょう。

(2)就業規則(賃金規程)の変更
賃金締切日および支払日は就業規則の絶対的必要記載事項の一つですので、就業規則(給与規程)の変更を行い、過半数で組織する労働組合または過半数代表者の意見聴取をしたのち、意見書を添えて労働基準監督署長に届け出る必要があります。

(3)社会保険の手続き
4月から6月は社会保険の算定基礎届の算定月に当たりますので、この間に賃金締切日を変更すると事務処理手続きが煩雑になります。通常、算定は4月、5月、6月の3ヵ月の賃金を3で除して報酬月額を算出しますが、例えば、5月1日から賃金締切日を変更すると、5月25日には4月16日〜4月30日までの0.5ヵ月分の賃金しか支払われないため、4〜6月分の賃金は2.5ヵ月ということになり、正確な報酬月額が算出できません。

そこで、このような場合には、5月25日支払分の賃金を除外し、4月と6月の2ヵ月の賃金を2で除して報酬月額を算出することになります。また、算定基礎届の備考欄に「給与締切日を15日から末日へ変更」など文言を付します。このように算定対象月に賃金締切日を変更すると、実務上、煩雑な処理が生じます。

(4)雇用保険の手続き
賃金締切日を変更した場合には、離職証明書の作成についても注意が必要です。例えば、5月1日に賃金締切日を変更した場合、離職証明書の賃金支払対象期間の欄は4月16日から4月30日までについては一期間として記載し、備考欄に賃金締切日変更の旨を附記します。
なお、賃金日額の算定に当たっては、変更の結果、賃金計算期間が短くなった月については、除外して計算されます。

 

Q2:給与計算で間違えたために、過払いをしてしました。翌月の給与支払いで精算することは、賃金の全額払いに抵触するのでしょうか?

A2:賃金控除の労使協定において、過払い賃金を翌月以降の賃金から控除することを締結しておけば、精算するこはできます。

もしこのような労使協定がない場合であっても、行政解釈において「前月分の過払賃金を翌月分で精算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから第24条第1項(賃金の全額払)違反とは認められない」(昭23、9.14 基発第1357号)とされているので、合理的な範囲内(時期、方法、金額)での過払賃金の精算(賃金の一部控除)は、全額払いの原則に反しないといえるでしょう。また、最高裁判決においても、「精算する時期が過払いのあった時期と合理的に接着した時期(過払い後2〜3ヶ月と解される)であり、あらかじめ労働者に精算について予告される、金額が多額に渡らないなど、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがない程度であれば許される」(昭44.12.18最高裁第1小 福島県教組事件)という例示もあります。

しかしながら、労働者に対する理解を得る上でも、控除できる賃金に過払い賃金を盛り込んだ賃金控除協定を締結しておくのが望ましいでしょう。