人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼解雇について

トラブル件数No.1はやはり解雇ですね。

Q1: 業務災害の被災者に対しては、その休業中及びその後30日間について解雇制限があると聞いています。一旦治癒と診断されたのですが、その後リハビリのために休んでいるような場合も解雇制限は適用されるのでしょうか?

Q2: 30日の予告期間を置いて解雇を申し渡したところ「出社したくないので、明日退職したい」との申し出を受けた。これを受け入れるとすると、解雇予告日30日未満前の退職となるわけですが、解雇予告手当を支払わないといけないのでしょうか?

Q3: 営業部の社員ですが、会社から3ヶ月間、売上げが一定額に満たない場合は、解雇すると言われていました。3ヶ月間売り上げが一定額に満たなかったため、次の給与締日を以って辞めてもらうといわれました。その給与締日まで1週間しかないので、解雇予告手当の支払いを要求したことろ、「もともと売上げ達成できなかったら辞めてもらうといって解雇予告をしていたじゃないか」と言われました。解雇予告手当は請求できないのでしょうか?

Q4: 就業規則に「採用の日から3ヶ月を試用期間とする。不適格と認めたときは本採用しない」と規定されています。欠勤が多く、仕事もまじめに覚えようとしない者の本採用を見合わせたいのですが、今から30日前の解雇通知をしても、解雇日が試用期間満了後となりますが問題はありますか?

Q5: 解雇予告をした者が、予告して3日目に業務上災害を被ってしまいました。業務上災害による休業中は解雇できないと聞いています。この場合、解雇予告は無効になってしまうのでしょうか?

Q6: 遅刻、無断欠勤が多く、再三注意しても改まらない社員がおり、得意先の信用を失ったり、周囲の社員にも迷惑になっており業務に支障をきたしているので、即時解雇したいと考えています。このように迷惑を掛けられた社員に解雇予告手当を支払う必要はないと考えますが、問題はないですか?

Q7: 4月1日から6ヶ月間の契約社員が、採用から5ヶ月目に起こった業務上の怪我により休業をしています。もうすぐ6ヶ月目となるのですが、この契約社員について、労基法第19条の解雇制限が適用され、契約期間満了時に退職してもらう訳にはいかないのでしょうか?

 

Q1: 業務災害の被災者に対しては、その休業中及びその後30日間について解雇制限があると聞いています。一旦治癒と診断されたのですが、その後リハビリのために休んでいるような場合も解雇制限は適用されるのでしょうか?

A1:労働者を解雇してはならない場合として、労基法で次のように定めています。
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りではない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」

業務上の災害で解雇制限の対象となるのは、上記のとおり、労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかり療養のため休業する期間およびその後30日間とされている。このため、業務外の私傷病で療養する期間については、解雇は制限されていません。
また、業務上の災害により治療を受けている期間であっても、休業せず1日のうち一部でも出勤している期間は該当しません。加えて、休業している場合であっても、療養のために休業する必要が認められなければ解雇が制限される期間とはなりません。

なお、障害補償が行われた後、外科後の処置として行う保険施設での療養期間中は療養のための休業期間ではないから障害補償支給事由確定の日から30日以後は解雇することができるとされています(昭25.4.21 基収1133)。
ここでいう30日間とは、傷病が治癒した後、労働能力回復のため必要とされる時間あり、休業期間の長短による違いはないのです。
業務上の災害により、解雇制限の対象とされている場合であっても労基法81条に規定されている打切補償を支払った場合は、解雇制限の適用除外とされています。

第81条 第75条の規定によって補償をうけたる労働者が、療養開始後3年経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金のの1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」

また、労災保険法19条により傷病補償年金を受けることとなった場合は、上記の打切補償を支払ったものとみなされる、とされています。このため、負傷又は疾病にかかった労働者が療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合または3年を経過した日後において傷病補償年金を受けることとなった場合は、解雇制限が解除されます。

 

Q2: 30日の予告期間を置いて解雇を申し渡したところ「出社したくないので、明日退職したい」との申し出を受けた。これを受け入れるとすると、解雇予告日30日未満前の退職となるわけですが、解雇予告手当を支払わないといけないのでしょうか?

A2: 通達(昭25.9.21 基収2824号、昭33.2.13 基発90号)では、「一般的に使用者は予告期間の満了するまでの期間勤務することが要求することができるものと考えられる」としており、「使用者が行った解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことを得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができるものと解すべきである」とされており、会社は予告期間までの勤務を要求し、予告日通りに解雇することも可能だと考えられます。

ただし、労働者の申出に基づくものであれば、解雇の予告を取り消して、希望する日に退職として取り扱うこともできると考えられます。本人から明日退職したい」との申し出があれば、解雇予告を取り消して、当初の行った予告日以前に退職とすることもできます。

 

Q3: 営業部の社員ですが、会社から3ヶ月間、売上げが一定額に満たない場合は、解雇すると言われていました。3ヶ月間売り上げが一定額に満たなかったため、次の給与締日を以って辞めてもらうといわれました。その給与締日まで1週間しかないので、解雇予告手当の支払いを要求したことろ、「もともと売上げ達成できなかったら辞めてもらうといって解雇予告をしていたじゃないか」と言われました。解雇予告手当は請求できないのでしょうか?

A3: 解雇予告とは、「解雇日」を明らかにして予告することをいいます。この事例の場合は、解雇日が特定できませんので、解雇予告をしたことにはならず、従って、事業主には解雇予告手当の支払い義務があります。

 

Q4: 就業規則に「採用の日から3ヶ月を試用期間とする。不適格と認めたときは本採用しない」と規定されています。欠勤が多く、仕事もまじめに覚えようとしない者の本採用を見合わせたいのですが、今から30日前の解雇通知をしても、解雇日が試用期間満了後となりますが問題はありますか?

A4: 試用期間中のもであっても、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には(労基法第21条)、すなわち雇い入れから15日以降に解雇するには、少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません。

不適格を認めたときは本採用しないとの規定から試用期間3ヶ月満了日が解雇日となるので、予告日と使用期間満了日との間に30日間ない場合には、30日に足りない日数分の解雇予告手当の支払いは必要になります。

 

Q5: 解雇予告をした者が、予告して3日目に業務上災害を被ってしまいました。業務上災害による休業中は解雇できないと聞いています。この場合、解雇予告は無効になってしまうのでしょうか?

A5: 労基法第19条には、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間は、解雇することはできないと規定してあります。 従って、業務上災害に基づく入院期間中はもとより退院後の療養休業期間及びその30日間は、労働者を解雇することはできないことになります。

  では、質問の場合ではどうなるかといいますと、解雇予告自体は、業務上災害前に行われており、当該予告の効力の発生自体が中止されるだけであるので、休業期間が長期にわたり解雇予告としての効力を失うものと認められる場合を除き、治癒した日に改めて解雇予告する必要はありません(昭26.6.25 基収第2609号)。つまり、解雇制限期間の満了する”休業後30日間を経過したのち(つまり31日目)は、解雇の効力が生じます。

 

Q6: 遅刻、無断欠勤が多く、再三注意しても改まらない社員がおり、得意先の信用を失ったり、周囲の社員にも迷惑になっており業務に支障をきたしているので、即時解雇したいと考えています。このように迷惑を掛けられた社員に解雇予告手当を支払う必要はないと考えますが、問題はないですか?

A6: 労基法第20条の但し書きには、
①天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合、②労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、解雇予告または解雇予告手当の支払いなしに即時解雇できると記載があります。しかしながら、留意していただきたいのは、②の場合は、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合のみとなっています。認定を受けてから解雇予告手当なしの即日解雇ができるのであって、即日解雇してから認定を受けることも原則的にはできません(都道府県により扱いが若干異なります)。

今回の事例が、②に該当するような事由となるかということが問題となりますが、認定基準としては、次の事例を挙げています。
①原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
②賭博、風紀紊乱などにより職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
③雇い入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④他の事業場へ転職した場合
⑤原則として2週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥出勤不良又は出欠常ならず、数回に渡って注意を受けても改めない場合
   (昭23.11.12基発第1637号、昭31.3.31基発第111号)。

今回の事例は⑥に該当すると考えられるので、所轄の労働基準監督署長に「解雇予告除外認定申請書」を提出し、その認定を受ければ、解雇予告、解雇予告手当支払い無しで解雇できます。

 

Q7: 4月1日から6ヶ月間の契約社員が、採用から5ヶ月目に起こった業務上の怪我により休業をしています。もうすぐ6ヶ月目となるのですが、この契約社員について、労基法第19条の解雇制限が適用され、契約期間満了時に退職してもらう訳にはいかないのでしょうか?

A7: 「解雇制限」は期間の定めのない労働契約についてのものであるため、この事例の被災者のようにあらかじめ期間を定めて労働契約を結んでいる場合には、雇用期間が満了すれば当然に労働契約は終了するものと考えてよいわけです。ただし、契約を何度も更新しているような場合や自動更新の場合には、期間の定めのない雇用と見なされ、解雇制限が適用される可能性があります。

なお、労災からの休業補償給付については、退職したからといって、医師により労務不能な状態であると証明がなされる場合は支給がストップされることはありません。