人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼懲戒について

Q1: 遠隔地への転勤を拒否した社員を、業務命令違反として懲戒解雇できますか?

Q2: 懲戒処分の種類にはどのようなものがあるのでしょうか?

Q3: 懲戒事由には、どのような種類のものがあるのでしょうか?

Q4: 懲戒処分としての始末書の不提出を懲戒処分できるでしょうか?

Q5: 出勤停止による無給処分は、労基法第91条の「減給の制裁」に当たるのでしょうか?

Q6: 賞与からの減給制裁も可能ですか?

Q1: 遠隔地への転勤を拒否した社員を、業務命令違反として懲戒解雇できますか?

A1: 判例によっても判断が分かれています。
例えば代表的な判例として、東亜ペイント事件(昭61.7.14最二小判)では、「労働協約及び就業規則に、使用者は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に営業所間で特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、採用の際に勤務地限定の特約もなかったことから、会社は、個別的同意なしに、当該労働者の勤務場所を決定し、転勤を命じて労務提供を求める権限を有する」としています。
その他の判例と合わせてみると、転勤命令違反を理由とする懲戒解雇が有効かについては、次のような点を勘案して個別に判断されているようです。

①就業規則への規定、社内において転勤が実際に行われているかどうか、採用時における転勤の可能性の説明など、転勤命令の根拠
②転勤命令の必要性
③労働者が転勤を拒否した事情
④転勤によって労働者が被る不利益

なお、④に関して、育児介護休業法第26条には、転勤にあたり、育児・介護の家族責任を有する労働者への配慮義務が規定されていますので、これを欠く転勤命令は無効と解されています。

 

Q2: 懲戒処分の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。

A2: 懲戒処分としてどのような処分ができるかは法定されていません。懲戒処分は就業規則等の労働契約に基づくのであるから、当事者間で自由に決めることができます。
もっとも、罰金や体罰は許されません。労基法16条は違約金や損害賠償額の予定を禁止しています。また、体罰は公序良俗に反します。
一般的には、譴責(けんせき)・戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇といった懲戒処分を規定する就業規則が多いです。
懲戒処分のうち、労働契約が存続することを前提とするものは、譴(けん)責・戒告、減給、出勤停止が代表的です。

【譴責】は、通常、始末書を提出させて将来を戒めることをいいます。
【戒告】は、始末書を提出させない場合をいいます。この区別は就業規則により異なり、始末書を提出させても戒告となる会社もあります。
【減給】は、本来ならば受けら得れるべき賃金の一部を差し引かれることをいいます。ただし、労基法91条には、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」ことが規定されています。
【出勤停止】は、労働者の就労を一定期間禁止することをいいます。この場合、就労を禁止された期間中の賃金請求権は消失します。
【懲戒解雇】は、普通解雇と異なり、懲戒として労働契約を使用者が一方的に解消するものです。懲戒解雇は退職金の没収減額を伴うことが多いようですが、懲戒解雇だからと言って退職金の没収減額の有効性が必ず認められる訳ではありません。

懲戒解雇とは別に、「論旨解雇」と呼ばれる懲戒処分を定めている場合もあります。これは、退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇するものが一般的です。この「論旨解雇」は、形式的には辞職による労働契約終了ですが、就業規則上は懲戒処分となります。

 

Q3: 懲戒事由には、どのような種類のものがあるのでしょうか。

A3: 懲戒事由は法律で定められるものではなく、就業規則等の労働契約により定められます
一般に、次のように大きく分類されます。

①経歴詐称
入社時に経歴を偽って申告することをいいます。重要な経歴の詐称に限定解釈されます。長期雇用の下では重い懲戒事由となりえます。
②職務懈怠
無断欠勤、出勤不良、遅刻過多、職場離脱等の職務規律違反です。軽微なものが多いが、繰り返されることにより重い懲戒処分も可能となります。日常的なものであるだけに、職場規律を乱すという実際上の支障は大きいです。
③業務命令違背
時間外労働・配転・出張命令等の業務命令への違反です。命令の根拠が包括的同意であるために、命令の有効性の判断が、命令違反に対する懲戒処分の有効性判断とほぼ重なることになります。
④業務妨害
組合の不当な争議行為、従業員間のトラブル、自宅待機命令を拒否しての強制就労などの場合がこれにあたります。
⑤職場規律違背
横領・背任、窃盗、従業員への暴行、セクハラ等がこれにあたります。政治活動、ビラ配布、宗教活動等もこれに該当する。
⑥従業員たる地位・身分に伴う規律違反
私生活上の非行、二重就職、誠実義務違反等の労働契約に伴う地位に基づく非違行為です。労働契約への影響の程度が問題となります。

 

Q4: 懲戒処分としての始末書の不提出を懲戒処分できるでしょうか?

A4: 就業規則の定め方にもよるでしょうが、懲戒処分である譴責では始末書の提出を求めることが多いです。この場合の始末書は、単に非違事実を報告するだけの顛末書或いは報告書にとどまらず、反省および謝罪の意を表明するものであることが一般的です。
通常は非違行為を反省しているので、始末書を提出することにも労働者の抵抗はないでしょう。

しかし、労働者が懲戒に不服である場合には、反省や謝罪をも求める始末書の提出を拒むことがあります。使用者としても、始末書の提出がなければ懲戒処分が完結しないので、どうしても提出させようとします。
そのような反省・謝罪の意思を含む始末書の不提出を理由とする懲戒処分について、憲法が保障する内心の自由を侵害するものとして、これを無効とする考え方があります。一方、始末書の提出を命じる懲戒処分に応じないことは服務規律違反であるとして、懲戒処分の対象とする考え方もあります。

労働契約では、本来的には労働提供と賃金支払いとが対価関係にある訳で、反省や謝罪という精神面での服従までは求められるものではないでしょう。始末書の性格にもよるでしょうが、不提出を理由とする懲戒処分は無効となる可能性があります。実務的には、相当な範囲内での配転・転勤などの適正な人事権の行使は可能でしょう。
また、使用者側が非違事実を確認するために顛末書あるいは報告書を業務命令として提出を求めるということであれば、それを提出しないことに対して業務命令違反ということも言えるでしょう。

 

Q5: 出勤停止による無給処分は、労基法第91条の「減給の制裁」に当たるのでしょうか?

A5: 労基法第91条は、懲戒処分である減給の制裁について「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定されています。多くの就業規則では出勤停止は無給となるので、出勤停止は同条の適用を受けるようにも思われます。

この点、解釈例規は、「制裁としての当然の結果であって、通常の額以下の賃金を支給することを定める減給制裁に関する法91条の規定には関係ない」としています(昭23.7.3 基収2177号)。裁判例でも、「労務の提供を受領しつつその賃金を減給するものでないから、懲戒処分としてなされる場合でも労働基準法第91条の適用はない」としています(パワーテクノロジー事件 東京地裁 平15.7.25判決)。
つまり、労基法第91条は減給の制裁に関する規制であり、出勤停止には適用されません。

出勤停止期間に応じて控除すべき賃金額の計算方法について、法律の定めはありません。上記裁判例も、「労働契約および労働基準法第24条に照らし合理的なものであればよい」とし、第91条に基づいて平均賃金とすべきとの主張をしりぞけています。この事案では、月ごとの賃金額を各月の所定労働日数で除して欠勤日数を乗じる方法によっており、参考となります。

 

Q6: 賞与からの減給制裁も可能ですか?

A6:行政解釈では、「制裁として賞与から減額することが明らかな場合は、賞与も賃金であり、労基法第91条の減給制裁の制限に該当する。従って、賞与から減額する場合も1回の事由については、平均賃金の2分の1を超え、また、総額については、賞与額の10分の1を超えてはならない」(昭和63.3.14基発第150号)となっており、賞与から減額を行う旨を就業規則等できちんと定めており、制限以内であれば、可能だということになります。
なお、いわゆる賞与の査定として、違反行為なども含めた勤務評価を考慮して賞与支給額を決定することは、減給制裁とは異なるものであるので、労基法91条で規定されている「減額の制限」は適用されず、すなわち10%を超えた減額があっても構わないことになります。