▼労働時間−事業場外みなし労働時間について |
Q1: みなし労働時間制とは、どのような場合に適用できるのでしょうか?
Q2: 営業社員には、お客様に即時対応できるように携帯電話を所持させています。携帯電話を持っていたらいつでも会社から連絡をすることができるので、みなし労働時間制の適用はなされないと聞いたのですが本当ですか?
Q3: 「みなし労働時間」は、どのように決定したらよいのでしょうか?
Q4: 労基法38条の2の但し書きにある「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」は、どのようにして算定するのでしょうか?
Q5: 事業場外労働のみなし労働時間制を採用する場合には、労使協定の締結が必ず必要なのでしょうか?
Q6: 事業場外みなし労働において、労使協定を締結しようと考えています。”事業場内における労働時間も含めて●時間とみなす”とする協定は、可能なのでしょうか?
Q7: 事業場外みなし労働時間を使いたい場合には、就業規則にはどのように記載すればよいのでしょうか? また、労使協定と協定届の記載例も教えて下さい。
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Q1: みなし労働時間制とは、どのような場合に適用できるのでしょうか? |
A1. みなし労働時間制の対象となる事業場外労働とは、
- ①労働時間の全部又は一部を事業場外で業務に従事し、
- ②使用者の指揮監督が及ばないため、労働時間を算定することが困難な場合
であり、事業場外における労働であっても、次のような場合はみなし労働時間制の適用はないとされています(昭63.1.1 基発1)。
- 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
- 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
- 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合
みなし労働時間制の対象となる事業場外労働とは、一般的には、記事の取材、セールス活動等外勤を主たる業務とする労働者の事業場外における労働であり、内勤を通常とする労働者の場合は、出張等による事業場外での労働です。
セールス活動等外勤を主たる業務とする労働者や出張中の労働者は、事業場外における業務の遂行中は、細かい使用者の指揮監督下にはなく、具体的な業務の遂行方法や時間配分についてある程度本人の自由裁量に任されており、使用者として具体的な労働時間の把握が困難な状態にあるのが通常といってもいいでしょう。
しかし、屋外労働であっても建設労働者のように使用者の指揮監督下にある場合、トラック、バス、タクシー等営業車両の運転手のように事業場外での運転そのものが業務である場合は、労働時間の把握が困難は状態にあるとはいえず、みなし労働時間制の適用はありません。 |
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Q2: 営業社員には、お客様に即時対応できるように携帯電話を所持させています。携帯電話を持っていたらいつでも会社から連絡をすることができるので、みなし労働時間制の適用はなされないと聞いたのですが本当ですか? |
A2. Q1で紹介した通達においては、「無線やポッケトベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」は、みなし労働時間制の適用はないとされています。この通達が出されたのは昭和63年ですが、そのころは、ポケットベルはともかく、携帯電話はほとんど普及していませんでした。
もし、携帯電話を携帯していたらみなし労働時間制の適用がないとなると、現在では、ほとんどの事業場外労働者にみなし労働時間制の適用がないこととなり、労基法38条の2はほとんど無用であるということになります。
上記通達の趣旨は、常時労働者の行動が把握され、常時「使用者の指示を受けながら」業務に従事している場合のことをいっていると考えられますから、たまに連絡事項はあるとしても、原則として業務の遂行方法等について労働者に自由裁量が認められている場合は、携帯電話を所持している場合でも、みなし労働時間制の適用があるものと考えられます。
携帯電話を会社の負担で営業社員全員に携帯させているような場合は、携帯させる必要性が高いからそうしていると考えられ、みなし労働時間制の適用の有無に関する一つの判断材料にはなると思われます。しかし、その一つをもって適用がないと判断するのは適当ではないと思われます。
裁判例には、携帯電話を所持させていたことをみなし労働時間制の適用がないことの理由として挙げたものがありますが(例:コミネコミュケーションズ事件 東京地裁 平17.9.30判決 第3668号―05.12.23)、それは判断理由の一つです。あくまで業務遂行方法について労働者に自由裁量が認められているか、それともいちいち使用者の指示を受けているか(通達の表現に従えば「随時使用者の指示を受けながら」業務に従事しているか)によって判断すべきでしょう。 |
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Q3: 「みなし労働時間」は、どのように決定したらよいのでしょうか? |
A3. 労基法38条の2の条文は次のとおりです。
38条の2
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
要約すると、次のようになります。
労働者が労働時間の全部又は一部を事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いときは、
- ①原則として所定労働時間労働したものとみなす
- ②当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす
- ③ ②の場合であっても、労使協定が締結されているときには、その協定で定める時間を当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする
つまり、以下のように3段階で決められているのです
1.原則は「所定労働時間労働したものとみなす」
基本的な考え方は、「所定労働時間労働したものをみなす」ということです。
事業場外労働に従事する労働者が、おおむね所定労働時間からそれほど逸脱しない労働をしている場合は、「所定労働時間労働したもの」とみなせば足り、それ以上特に必要な措置はありません。(ただし前提として就業規則への記載は必要です。)労使協定の締結も不要です。 【図表1】
2.時間外労働が必要であるという場合
前項1.で説明したとおり、事業場外労働に従事する労働者の労働時間が所定労働時間をさほど逸脱するものでない場合は、「所定労働時間労働したものとみなす」ことで足ります。
しかし、事業場外労働に必要な時間は、事業場や業務の内容によってそれぞれ異なります。
そこで、労働者が事業場外労働を行うに当たって、どうしても時間外労働が必要であるという場合には、労基法は、その業務(=事業場外における業務)については、「通常必要とされる時間労働したものとみなす」こととしているのです。
従って、実態を無視して安易に「所定労働時間労働したものとみなす」わけにはいきません。
事業場外労働がある事業場においては、所定労働時間労働したものとみなせば労使協定もいらず好都合であること等を理由に、「所定労働時間労働したものとみなす」という取り扱いをするケースは非常に多いように思われます。しかし、実際には相当の時間外労働が生じているのであれば、本来「所定労働時間労働したものとみなす」ことはできないのです。 |
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Q4: 労基法38条の2の但し書きにある「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」は、どのようにして算定するのでしょうか? |
Q4. 労基法第38条の2第1項但し書きという「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、「通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間」をいいます。(昭63.1.1 基発1)。
つまり、事業場外における業務は、各日の状況や従事する労働者等によって実際に必要とされる時間には差異があると考えられますが、平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要であるかということです。8時間で済むこともあり、9時間かかることもあり、10時間かかることもあるが、平均的には9時間程度ということであれば、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」は、業務の遂行に通常必要とされる時間」は、「9時間」ということになります。
ここで注意すべきことは(もっとも誤解の多い部分です)、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」というのは「当該業務」すなわち「事業場外における業務」の遂行に必要とされる時間のことです。当該日の労働時間全体のことではありません。
したがって、事業場外労働のほか事業場内における労働もある場合においては、事業場内における労働時間は別扱いですから、その日の労働時間全体は、みなされた事業場外の労働時間に事業場内の労働時間を加えて算定しなければなりません。 【図表2】
労働時間を算定し難いときの原則が事業場外、事業場内を含めて「所定労働時間労働したものとみなす」にもかかわらず、なぜ所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合については、事業場外労働の部分だけをみなすにとどめるかという点については疑問が残ります。
原則が事業場外、事業場内を含めて「所定労働時間労働したものとみなす」ものであるならば、例外も事業場外、事業場内を含めて一定時間労働したものとみなすこととするほうが、わかりやすいし不都合もないのではないかと思われますが、現在のところ、そのような規定、解釈にはなっていないようです。早く条文の改正か、明確な通達が欲しいところです。 |
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Q5: 事業場外労働のみなし労働時間制を採用する場合には、労使協定の締結が必ず必要なのでしょうか? |
A5. みなし労働時間制の一つである専門業務型裁量労働制では、労使協定の締結が必須の要件となっており(労基法第38条の3第1項)、企画業務型裁量労働制は労使委員会の決議が必須の要件となっています(同38条の4第1項)が、事業場外労働のみなし労働時間制については、労使協定は必須の要件となってはいません(同38条の2第2項)。
労使協定は、あくまで労基法第38条の2第1項但し書きによってみなされる時間を補完するものとして、労使協定があるときは、その協定で定める時間を「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とするだけのものです。
事業場外労働に必要な時間がどの程度であるのかは、ぞれぞれの事業場の労使が最もよく分かっているところから、労使協定によって当該必要とされる時間を定めた場合には、それによることとしたものです。
行政通達も、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間については、業務の実態が最もよくわかっている労使間で、その実態を踏まえて協議した上で決めることが適当である」「常態として行われている事業場外労働であって労働時間の算定が困難な場合には、できる限り労使協定を結ぶよう十分指導すること」(昭63.1.1 基発1)として、労使協定の締結を奨励しています。 |
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Q6: 事業場外みなし労働において、労使協定を締結しようと考えています。”事業場内における労働時間も含めて●時間とみなす”とする協定は、可能なのでしょうか? |
A6. Q4で説明したとおり、労基法38条の2第2項で定められている労使協定には、同条第1項但し書きの「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」すなわち「事業場外において業務に従事した時間」について協定することしか委ねられていません。
また、Q5でも触れたとおり、この労使協定は、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合において、事業場外における労働として「通常必要とされる時間」を協定するものですから、労使協定の締結は、時間外労働が生じる可能性が高い場合に限られます。事業場内労働も含めて「所定労働時間労働したものとみなす」という労基法38条の2第1項本文が適用されるケースには、労使協定はそもそも関係ないからです。
通達においても、「みなし労働時間制による労働時間の算定の対象となるのは、事業場外で業務に従事した部分であり、労使協定についても、この部分について協定する」「労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、みなし労働時間制によって算定される事業場外で業務に従事した時間と、別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる」(昭63.3.14 基発150)と、労使協定の役割について説明しています。また、『改訂新版 労働基準法 上』(いわゆる労働法コンメンタール 労務行政刊)でも、「労使協定で、事業場内で業務に従事した時間をも含めて、その日に労働した時間を協定することはできない」と記載されています。 |
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Q7: 事業場外みなし労働時間を使いたい場合には、就業規則にはどのように記載すればよいのでしょうか? また、労使協定と協定届の記載例も教えて下さい。 |
A7. 事業場外労働のみなし労働時間制を実施する場合、就業規則でその旨を定める必要があります。就業規則の規定例は 【図表3】 のとおりです。
事業場外労働に従事する労働者がおおむね所定労働時間からそれほど差異がない労働をしている場合は、「所定労働時間労働したもの」とみなせば足り、それ以上特に必要な措置はありません。 一方、通常所定労働時間を超えることが予想される事業場外労働については、通常必要とされる時間または労使協定で定めた時間労働したものとみなすとしています。(労基法38条の2第1項および第2項)。 Q5でも述べたように、労使協定は必須の要件ではありませんが、事業場内労働も含め一定の時間外労働がある場合は、できるだけ労使協定を締結することが望ましいとされています。 【図表4】 そして、この労使協定で定める時間(みなし時間=事業場外労働の時間)が法定労働時間を超える場合には、労働基準監督署に届け出る必要があります。なお、実際に届ける書類は、事業場外労働に関する協定届(PDF)です。また、協定で定める時間が法定労働時間を超えない場合は労使協定を締結しても届け出る必要はありません。 |
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