1.清算期間とは
清算期間とは、フレックスタイム制において、契約上、労働者が労働すべき時間を定める時間のことです。労働者は、清算期間の定められた時間について労働するように、各日の始業および終業の時刻を自分で決定して働くことになります。
2.清算期間における“総労働時間”として定められた時間とは
清算期間における“総労働時間”として定められた時間は、「契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間」として定められる時間であり、いわゆる“所定労働時間”のことです。すなわち、フレックスタイム制においては、”所定労働時間”は、清算期間を単位として定められることになります。
“総労働時間”は、一般的には「標準となる1日の労働時間×その月の所定労働日数」として定めます。その場合、清算期間を平均して、1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えないことが要件となります。
3.“総労働時間”に対する“実労働時間”の過不足に関する取り扱い
原則的には、当該清算期間内で労働時間および賃金を清算することが、フレックスタイム制の本来の趣旨になじむと考えられますが、通達によれば、次のように考えることとしています(昭63.1.1 基発1・婦発1)。
(1)“総労働時間”として定められた時間を超えて労働した場合
清算時間において、“実労働時間”が“総労働時間”として定められた時間“を上回った場合に、質問にあるように、その超過分を、次の清算期間中の”総労働時間“に繰り越して充当することは認められません。その清算期間内における労働の対価の一部が、その期間の賃金支払日に支払われないことになり、賃金全額払いの原則(労基法24条)に抵触するからです。この場合、時間外労働として、当該清算期間内に、賃金で清算しなければならないのです。
ただし、超過分について、【Q3の1−①】で説明した法定労働時間の総枠内の「法定残業」と、それを超える「法外残業」とに分けて計算し、時間外割増賃金の対象を法外残業分のみとすることは、差し支えありません。
(2)“総労働時間”として定められた時間より“実労働時間”が少なかった場合
清算期間における“実労働時間”が、“総労働時間”として定められた時間に及ばなかった場合、次のような措置をとることができると、通達では言われています。
総労働時間として定められた時間分の賃金をその期間の賃金支払日に支払う一方、それに達しない時間分について、次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させる
これについては、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、問題ありません。その清算期間においては、実際の労働時間に対する賃金よりの多く支払っており、次の清算期間でその過払い分を清算するものと考えられるからである。
ただし、次の清算期間の繰り越した結果、次の清算期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合は、超過分が時間外労働となり、割り増しを支払う必要が生じる点に留意しなくてはなりません。
では、質問のように「“総労働時間”に足らない時間数分の賃金をカットする」ことは認められるのでしょうか。
この点について、明確な行政通達や判例などはないようです。
“総労働時間”は、「契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間」として定められる時間であるので、実労働時間に対応する賃金を支払う、すなわち、契約上の労働時間に足らない時間分を不就労控除することにすることはノーワークノーペイの原則に従えば、できそうな気がします。法律違反ではないので、可否についていえば、「賃金カットは可能」が回答となります(その場合、勿論、就業規則や賃金規程などへの記載が前提です)。
しかしながら、「労働者に始業・終業を委ねる」とういうフレックスタイム制の趣旨から鑑みると、実労働時間が総労働時間に足りなかったら賃金カットするということは適切でないという見解もありますので、その点には留意すべきでしょう。 |