人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼労働時間−フレックスタイム制について

Q1: フレックスタイム制を導入するためには、どのようなことが必要になりますか?

Q2: コアタイムとフレキシブルタイムを設定する場合に、何か法令上の定めがあるのでしょうか?

Q3: フレックスタイム制を採った場合の、時間外、休日労働、深夜労働時の割増賃金は、それぞれどのように考えたらよいのでしょうか?

Q4: 労使協定によって清算期間内の総労働時間と定めた時間よりも、実際に働いた労働時間が多い場合に、その時間を繰り越して翌月の労働時間に充当する処理をしてもよいのでしょうか? また、少ない場合は、賃金をカットしてもよいのでしょうか?

Q5: フレックスタイム制では、休日労働分も含めて労働時間として計算してよいのでしょうか?

 

Q1: フレックスタイム制を導入するためには、どのようなことが必要になりますか?

A1:フレックスタイム制は、1カ月以内の清算期間の総労働時間の枠を定め、その中で各日の始・終業時刻は、個々の労働者の意思決定にゆだねる制度であり、労基法32条の3において基本的な導入要件が定められています。

1.就業規則等に定めること

まず、就業規則その他これに準ずるものにより、「始業および終業の時刻を労働者の決定にゆだねること」を定め、それを社員に周知するとともに、変更した就業規則を労働基準監督署長に届け出なければなりません。なお、「労働者の決定にゆだねる」のは、始業および終業の両方の時刻でなければなりません。

また、労基法89条1項により、「始業および終業の時刻に関する事項は、就業規則に定めること」とされています。コアタイム(必ず労働しなければならない時間帯)およびフレキシブルタイム(選択により労働することができる時間帯)は、「始業および終業の時刻に関する事項」であるので、これらの時間帯を設ける場合には、就業規則の規定しておく必要があります。ただし、コアタイム・フレキシブルタイムを設けるかどうか自体は任意ですので、設けるのであれば、その内容に関する規定・記載が必要ということになります。

2.労使協定を締結すること


さらに、当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合(これがない場合は、労働者の過半数を代表する者)と、次の事項について、書面により協定しなければなりません(労基法32条の3、労基則12条の3)。ただし、この労使協定は、監督署へ届ける必要はありません。

① 適用労働者の範囲
労働者の範囲は、18歳未満の年少者を除いて制限はなく、自由に定めることができる。各事業場で任意に設定可能であり、個人ごと、課ごと、グループごと、あるいは事業場全体など、さまざまな範囲をとって差し支えない。

② 1カ月以内の清算期間とその起算日
清算期間とは、フレックスタイム制によって労働すべき時間を定める単位期間のことである。その長さは1カ月以内に限られるが、通常は、賃金の計算期間である1カ月とし、起算日も賃金計算期間の始期に合わせるのが一般的である。

③ 清算期間における総労働時間
労働契約上、労働者が労働すべき時間を定めるものであり、清算期間を平均して、一週当たりの労働時間が法定労働時間の範囲内となるように定めなければならない。「標準となる1日の労働時間×その月の所定労働日数」により定めるのが一般的。

④ 「標準となる1日の労働時間」の長さ
「年次取得時に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間」や「出張時のみなし労働時間」となる労働時間の長さを定めるもの。フレックスタイム制を導入する時点での1日の所定労働時間を基準とする場合が多い。

⑤ コアタイムの開始および終了の時刻
就業規則への規定同様、コアタイムを設ける場合には、労使協定で定めておく必要がある。

⑥フレキシブルタイムの開始および終了の時刻
就業規則への規定同様、フレキシブルタイムを設ける場合には、労使協定で定めておく必要がある。

 

Q2: コアタイムとフレキシブルタイムを設定する場合に、何か法令上の定めがあるのでしょうか?

1.コアタイム

コアタイムとは、「すべての労働者が必ず勤務しなければならない時間帯」のことであり、法令上必ず設けなければならないものではありませんが、設定する場合には、就業規則および労使協定において、その「開始および終了の時刻」を定める必要があります。

アタイムの時間帯は、事業所が自由に定めることができ、必ずしも事業所一斉に設ける必要はありません。「コアタイムを設ける日・設けない日があるもの」「日によってコアタイムが異なるもの」「部署ごとにコアタイムが異なるもの」なども可能です。

コアタイムを分割することも問題ないが、最初のコアタイムの開始時刻から最後のコアタイム終了までの時間が、「標準となる1日の労働時間」とほぼ一致するような場合には、「始業および終業の時刻について、労働者の決定にゆだねたもの」(=フレックスタイム制のそもそもの趣旨)とはいえず、認められないと解釈されています。

また、フレックスタイム制下でも、休憩時間は、労基法34条の要件に合致するように与えなければならないので、一斉休憩が必要な場合には、コアタイム中に休憩時間を設け、一斉に与えるようにしなければなりません。

2.フレキシブルタイムの決め方


フレキシブルタイムとは、「労働者各人が自己の始業・終業の時刻を自由に決定することができる時間帯」のことである。労働者は、この中で始業・終業時刻を自由に決定することにより、清算期間内のトータルの労働時間を調整し、契約労働時間に対する清算(プラス・マイナス)をすることになります。

フレキシブルタイムも、コアタイムと同様、法令上必ず設けなければならないものではないが、これを設ける場合には、就業規則および労使協定において、開始・終了の時刻を定める必要があります。

フレキシブルタイムの時間帯についても、労使協定で自由に定めることができますが、フレキシブルタイムが極端に短い場合は、行政通達によれば、「基本的には始業および終業の時刻を労働者の決定にゆだねたことにはならず(昭63.1.1基発1・婦発1、平11.3.31 基発168)、フレックスタイム制の趣旨には合致しない」ものとされています。例えば、フレキシブルタイムが30分といったケースは許されません。また、あまりに長くしすぎると、長時間労働や時間外労働発生の温床になりかねないため、行政(労働基準監督署)からもこれらの点については、指導を受ける場合があります。

フレキシブルタイムが設定されれば、労働者は、その範囲内で労働する必要があるが、フレキシブルタイムを超えて労働したとしても、それが使用者の業務命令によるものであったり、労働者の任意であっても、使用者がそれを黙って認めているという「黙視の承認」があると判断される場合は、労働時間として取り扱われることになります。

なお、フレキシブルタイムを法令上設定する義務はありませんが、従業員が深夜にばかり仕事を行うようになると、経費(深夜割増や電気代)や安全面での問題が発生してしまうので、労務管理上は設定することが望ましいでしょう。

 

Q3: フレックスタイム制を採った場合の、時間外、休日労働、深夜労働時の割増賃金は、それぞれどのように考えたらよいのでしょうか?

1.時間外割増

フレックスタイム制は、労働者が、労働時間の始業・終業の時刻を自由に選択できる制度であり、所定労働時間については、1カ月以内で設定した一定の清算期間が単位となります。(1日単位、1週間単位の所定労働時間はありません)

従って、1日または1週間ごとに労働時間を清算せずに、1カ月など一定の清算期間の”総労働時間”(=契約において労働義務がある1か月間の所定労働時間のことになります)と”実労働時間”(=実際に働いた労働時間)との間で、過不足を清算することになります。

清算期間の”実労働時間”が”総労働時間”を超えた場合には、次のように考えます。
①清算期間の”総労働時間”は超え、さらに法定労働時間の総枠を超えた場合
超えた部分が所定時間外労働となり、さらに法定労働時間の総枠を超えた部分については、時間外割増賃金(=時間単価×1.25)の対象
②清算期間の”総労働時間”は超えるが、法定労働時間の総枠内である場合
いわゆる「法内残業」となり、割り増しの対象とはならず、通常の賃金相当額(=時間単位×1.0)を支払うことで足りる。ただし、就業規則等において、法内残業についても割り増しの対象とする定めをしていれば、支払う義務あり。
なお、法定労働時間の総枠については、以下の計算式により算定します。

清算期間における法定労働時間の総枠=
1週間の法定労働時間×清算期間の週数(清算期間の暦日数÷7日)

例えば、週の法定労働時間が40時間の事業場で、清算期間を1カ月である場合には、
30日の月⇒30日÷7日=171.4H(171時間25分)
31日の月⇒31日÷7日=177.1H(177時間8分)
となります。

2.休日労働割増


フレックスタイム制は、始業・終業の時刻のみを労働者の自主決定にゆだねる制度であって、休日について自由に選択できる制度とはなっていません。従って、労基法35条の適用があり、少なくとも毎週1日、または4週につき4日の休日を与えなければならない(いわゆる法定休日)。使用者は、この法定休日に労働させた場合には、35%以上の率で計算した休日労働割増賃金を支払う必要があります。また、就業規則等において、所定休日に対して休日割増を支払う定めがある場合は、法定休日のみならず、当然に所定休日についても同様に割増賃金を支払う必要があります。ただし、賃金の計算の仕方については、【Q5-1】を参照にして下さい。

3.深夜労働割増


深夜労働についても、休日の場合と同様、割増賃金の支払い義務があります。すなわち、労働者が、午後10時から午前5時までの間の深夜に労働した場合には、使用者はその時間を把握し、25%以上の率で計算した深夜労働割増賃金(算定基礎額×0.25)を支払わなければなりません。

清算期間における“総労働時間”として定められた時間は、「契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間」として定められる時間であり、いわゆる“所定労働時間”のことです。すなわち、フレックスタイム制においては、”所定労働時間”は、清算期間を単位として定められることになります。

 

Q4: 労使協定によって清算期間内の総労働時間と定めた時間よりも、実際に働いた労働時間が多い場合に、その時間を繰り越して翌月の労働時間に充当する処理をしてもよいのでしょうか? また、少ない場合は、賃金をカットしてもよいのでしょうか?

1.清算期間とは


清算期間とは、フレックスタイム制において、契約上、労働者が労働すべき時間を定める時間のことです。労働者は、清算期間の定められた時間について労働するように、各日の始業および終業の時刻を自分で決定して働くことになります。

2.清算期間における“総労働時間”として定められた時間とは


清算期間における“総労働時間”として定められた時間は、「契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間」として定められる時間であり、いわゆる“所定労働時間”のことです。すなわち、フレックスタイム制においては、”所定労働時間”は、清算期間を単位として定められることになります。

“総労働時間”は、一般的には「標準となる1日の労働時間×その月の所定労働日数」として定めます。その場合、清算期間を平均して、1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えないことが要件となります。

3.“総労働時間”に対する“実労働時間”の過不足に関する取り扱い


原則的には、当該清算期間内で労働時間および賃金を清算することが、フレックスタイム制の本来の趣旨になじむと考えられますが、通達によれば、次のように考えることとしています(昭63.1.1 基発1・婦発1)。

(1)“総労働時間”として定められた時間を超えて労働した場合
清算時間において、“実労働時間”が“総労働時間”として定められた時間“を上回った場合に、質問にあるように、その超過分を、次の清算期間中の”総労働時間“に繰り越して充当することは認められません。その清算期間内における労働の対価の一部が、その期間の賃金支払日に支払われないことになり、賃金全額払いの原則(労基法24条)に抵触するからです。この場合、時間外労働として、当該清算期間内に、賃金で清算しなければならないのです。

ただし、超過分について、【Q3の1−①】で説明した法定労働時間の総枠内の「法定残業」と、それを超える「法外残業」とに分けて計算し、時間外割増賃金の対象を法外残業分のみとすることは、差し支えありません。

(2)“総労働時間”として定められた時間より“実労働時間”が少なかった場合
清算期間における“実労働時間”が、“総労働時間”として定められた時間に及ばなかった場合、次のような措置をとることができると、通達では言われています。
総労働時間として定められた時間分の賃金をその期間の賃金支払日に支払う一方、それに達しない時間分について、次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させる
これについては、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、問題ありません。その清算期間においては、実際の労働時間に対する賃金よりの多く支払っており、次の清算期間でその過払い分を清算するものと考えられるからである。

ただし、次の清算期間の繰り越した結果、次の清算期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合は、超過分が時間外労働となり、割り増しを支払う必要が生じる点に留意しなくてはなりません。

では、質問のように「“総労働時間”に足らない時間数分の賃金をカットする」ことは認められるのでしょうか。
この点について、明確な行政通達や判例などはないようです。

“総労働時間”は、「契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間」として定められる時間であるので、実労働時間に対応する賃金を支払う、すなわち、契約上の労働時間に足らない時間分を不就労控除することにすることはノーワークノーペイの原則に従えば、できそうな気がします。法律違反ではないので、可否についていえば、「賃金カットは可能」が回答となります(その場合、勿論、就業規則や賃金規程などへの記載が前提です)。

しかしながら、「労働者に始業・終業を委ねる」とういうフレックスタイム制の趣旨から鑑みると、実労働時間が総労働時間に足りなかったら賃金カットするということは適切でないという見解もありますので、その点には留意すべきでしょう。

 

Q5: フレックスタイム制では、休日労働分も含めて労働時間として計算してよいのでしょうか?

1.法定休日労働と割増賃金


【Q3の2】で説明したように、フレックスタイム制の下でも、同条の適用は除外されていません。
すなわち、フレックスタイム制においても、法定休日に労働させた場合には、その時間を把握し、35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。そのため、通常の労働日の労働時間と合わせて取り扱ってしまうと、割増賃金が支払われない可能性が出てきます。
従って、法定休日における労働時間については、通常の労働日とは別に集計し、把握しなければなりません。

ただし、法定休日労働として別途計算する場合でも、月給制であって、法定休日の労働時間を含む実労働時間が、その月の総労働時間として定められた時間の枠内であれば、すでに月給として100%分の賃金が支払われていることになるので、その時間については、35%の割増賃金のみの加算でよく、本体部分を含めた135%とする必要はありません。もちろん、「総労働時間として定められた時間」を超える法定休日労働時間については、135%の加算が必要になります。

2.法定外休日に労働した場合


一方、法定休日以外の休日労働(例えば法定休日を日曜日としている場合には、土曜日や国民の祝日に労働した時間のこと)については、どうなるでしょうか。フレックスタイム制では、1日や1週間の所定労働時間という概念がありません。1ヵ月以内で設定した一定の清算期間が単位となるため、通常の各日の労働時間と合わせて集計し、清算期間の総労働時間を超えた時間については、時間外労働として、25%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになります(ただし、法定外休日についても、35%の割り増し賃金を支払うことが就業規則などで定めてある場合は除く)。

なお、就業規則や賃金規定等で、法定休日とそれ以上の休日を区別していない場合、休日である土曜に出勤しても、日曜日などに他に1日の休日が確保されていれば、週1日の法定休日は確保されており、土曜出勤は休日労働に該当しません。しかし、土日両日に出勤した場合は、週1日の法定休日が確保されていないため、土日いずれかの労働について、1.の法定休日における労働時間と同じ扱いをする必要があります。

3.法定休日の振り替えと代休付与


休日の振り替えと代休については、フレックスタイム制においても、一般的な取り扱いとなります。
すなわち、業務上の必要性から法定休日労働を命じる場合、就業規則等に定めてある方法に従って、休日の振り替えを行うとすれば、この場合、当初の休日は労働日となるので、通常の労働日の労働時間として把握することでよく、たとえ本来の法定休日労働における割増賃金の対象とはなりません。
一方、休日の振り替えを行わず、代休の付与より対応する場合には、現に法定休日労働が行われたことにより変わりはないため、本体部分を除いた割増賃金の支払いが必要になります。