人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼損害賠償について

Q1: 当社の従業員が、本人の不注意により会社の高価な装置を壊してしまいました。その従業員に対して損害賠償を請求することはできますか?

 

Q1: 当社の従業員が、本人の不注意により会社の高価な装置を壊してしまいました。その従業員に対して損害賠償を請求することはできますか?

A1: 結論から言えば、損害賠償請求すること自体は可能です。 労働基準法16条において、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定されています。この文言から、損害賠償ができないと誤解されるケースもあるようですが、条文で禁止されているのは、「損害賠償”額”を予定する契約」なので、”実際に発生した損害”について賠償請求することまでを否定するものではありません。

ただし、全額できるかどうかとなると、別問題です。過去の判例では、単純な過失では全額の損害賠償を認めていません。また、重大な過失、故意や悪意のある場合であっても、会社側の管理責任や教育指導の不徹底などを考慮されるため、よほど社員側の責任が重い場合を除いて、損害額全額の賠償は認めていません。 一般的な損害賠償案件とは異なり、労使関係の上での損害賠償については、たとえ社員が会社に損害を与えたとしても、使用者である会社側にも、損害の公平な分担が必要であるという考え方があるからです。

判例に基づいて、故意や重大な過失のない通常の過失事故においては、会社が本人に請求できる損害賠償額は2割から3割程度とされており、軽度な過失については損害賠償請求すること自体を否定している判例もあります。これらの過去の例なども見つつ、本人と話し合いをもって、会社側の負担と本人の負担を、お互いに納得する金額で決定するべきでしょう。

なお、冒頭で説明した労働基準法16条により、「もともと損害賠償”額”を予定しておくことは違法」となります。例えば、「装置を壊したら、200万円を罰金として徴収する」といったように決めておくことは認められていませんので、注意してください。逆にいえば、「損害をこうむった実損害額に応じて賠償請求をする」と定めることは可能であり、大抵の就業規則にも記載されていると思います。

また、会社は社員に損害賠償を請求する場合は、従業員の同意なくして給料から控除せずに、いったん給料を支給して、その中から賠償金を支払ってもらわなければなりません。損害賠償額が多額になる場合は、会社としては、一般的には支払い時期や回数なども配慮しなければならないでしょう。