人事労務担当者のための労務相談Q&A


▼割増賃金について

間違って解釈していたり、知らなかったりで、実は正しく計算されていない場合が多いようです。

Q1: 1ヶ月単位の変形労働時間制をとっています。土日のうち土曜日だけを出勤させてその分他の日に振り替えました。1ヶ月の総労働時間は変わらないのに、割増賃金が必要だといわれましたが本当ですか?

Q2: 時間外労働が、法定休日にかかった場合、割増賃金はどのように計算しますか?

Q3: 所定労働時間が7時間である場合、8時間までの労働に対しての賃金は、どうすればよいのでしょうか?

Q4: 当社の始業・終業の時刻は、9:00〜18:00(休憩時間1時間)です。業務の必要から、一部の従業員について、始業時刻を14:00、終業の時刻を23:00に繰り下げたところ、その日の勤務は翌日(平日)にまで及んでしまいました(ただし、深夜の2:00〜7:00までは仮眠をとらせました)。この場合、どこからどこまでが時間外労働になり、割増賃金はどうように計算すればよいのでしょうか? なお、通常は終業の時刻を超えたとき(所定労働時間を超えたとき)から割増賃金を支払っています。

Q5: 当社の工場では、三交替制24時間操業をしています。早番は0:00〜8:30、中番は8:00〜16:30、遅番は16:00〜0:30で、「早早早○遅遅遅○中中中○」(○は休日)の12日間で9日勤務のサイクルで運用しています。10月4日から始まる週の1日、中番要員が1人不足するため、遅番3日目の者を、予定勤務が終了してから7時間30分経過後の同日午前8:00から再び勤務させたいのですが、この場合、いくらの割増賃金を支払えばよいのでしょうか? 就業規則上、休日労働は35%増、時間外労働は25%増となっています。

Q6: 管理監督者であっても、深夜割増は支払わなければならないと聞きました。その場合、役職手当も、深夜労働割増賃金を支払う際の算定の基礎となる賃金に含めなければならないでしょうか?

Q7: 1ヶ月単位変形労働時間制を導入した事業場ですが、6月(1日〜末日)にカレンダーどおりに出勤させると、公休日は8日で、所定労働時間が1ヶ月の総枠を超えてしまいます。この場合、時間外割増の支払いが必要と聞きましたが、本当なのでしょうか?


Q1:1ヶ月単位の変形労働時間制をとっています。土日のうち土曜日だけを出勤させてその分他の日に振り替えました。1ヶ月の総労働時間は変わらないのに、割増賃金が必要だといわれましたが本当ですか?

A1:変形労働時間制であっても、あらかじめ特定されていない週に、振り替えによって週40時間を超えることになれば、割増賃金が必要。(平6.3.31基発181号)
1ヶ月単位であろうと、1年単位であろうと、変形労働時間制を採用している場合において振り替えた場合は、休日については、3.5割増という規定があります。

 

Q2:時間外労働が、法定休日にかかった場合、割増賃金はどのように計算しますか?

A2:休日は暦日単位で考えること、時間外労働と休日労働(法定)とは別個に考えることに留意します。
すなわち、時間外労働の時間帯が、当日の22時〜24時までは、時間外割増+深夜割増となり、時間当たり相当額の1.5倍、24時を超えて翌日(法定休日)になると、5時までは、休日割増+深夜割増の時間当たり相当額の1.6倍となります。

 

Q3: 所定労働時間が7時間である場合、8時間までの労働に対しての賃金は、どうすればよいのでしょうか?

A3:行政解釈では、「法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。」となっておりますので、時間当たり単価の100%の額で計算した賃金を支払えばよいでしょう。
ただし、先の通達によれば、労働協約や就業規則等によって、その1時間に対して別に定められた賃金額がある場合には、その別に定められた額で構わないと解釈されています。

 

Q4: 当社の始業・終業の時刻は、9:00〜18:00(休憩時間1時間)です。業務の必要から、一部の従業員について、始業時刻を14:00、終業の時刻を23:00に繰り下げたところ、その日の勤務は翌日(平日)にまで及んでしまいました(ただし、深夜の2:00〜7:00までは仮眠をとらせました)。この場合、どこからどこまでが時間外労働になり、割増賃金はどうように計算すればよいのでしょうか?なお、通常は終業の時刻を超えたとき(所定労働時間を超えたとき)から割増賃金を支払っています。

A4:このケースの場合、始業・終業の時刻を5時間繰り下げていますので、14:00から23:00までが所定労働時間となり、その後の23:00から翌9:00までが時間外労働となります。ただし、深夜の2:00から翌7:00の間は仮眠をとらせたとのことですので、この間は休憩と扱うことができます。したがって、繰り下げた後の終業時刻である23:00から翌9:30までのうち、5時間の仮眠時間を除いた5時間10分が時間外労働となり、この時間に対して、2割5分増以上の割増賃金を支払わなければなりません。

ところで、終業の時刻を繰り下げたため、22:00から23:00の間は、所定労働時間になりますが、この時間は深夜の時間帯に当たりますので、2割5分増以上の深夜割増を支払わなければなりません。そして、23:00から仮眠に入る2:00までは、通常の賃金に深夜割増と時間外割増を加えた額を、また、7:00から翌日の始業時間である9:00までの2時間については、通常の賃金に時間外割増を加えた割増賃金の支払いが必要となります。

  すなわち

  • (1)22:00〜23:00・・・深夜割増(0.25)

  • (2)23:00〜2:00・・・深夜割増+時間外割(1.50)

  • (3)2:00〜7:00・・・仮眠時間=無給

  • (4)翌日の7:00〜9:00・・・時間外割増(1.25)

というように計算します(図参照)。
翌日の9:00以降は通常の勤務になり、通常の賃金を支払うことで足り、割増賃金は不要です。

勤務が翌日までに及んだときの割増賃金

 

Q5: 当社の工場では、三交替制24時間操業をしています。早番は0:00〜8:30、中番は8:00〜16:30、遅番は16:00〜0:30で、「早早早○遅遅遅○中中中○」(○は休日)の12日間で9日勤務のサイクルで運用しています。10月4日から始まる週の1日、中番要員が1人不足するため、遅番3日目の者を、予定勤務が終了してから7時間30分経過後の同日午前8:00から再び勤務させたいのですが、この場合、いくらの割増賃金を支払えばよいのでしょうか? 就業規則上、休日労働は35%増、時間外労働は25%増となっています。

A5: このケースのポイントは、遅番3日目の勤務終了後の同日午前8時からの勤務が、前日の勤務が延長された時間外勤務なのか、それとも休日勤務になるのかという点です。

行政解釈では、三交替制連続操業を行う事業場における休日については、「(1)交代制が就業規則等に規定されて、交代が規則的に定められ、(2)都度設定されるものでは無い、といった場合には、継続24時間を与えれば差し支えない」(昭63.3.14.基発150号)とされていますが、継続24時間を含む休息時間中に暦日による継続24時間があ場合には、法第35条の休日である」(昭和26.10.7基収3962号)とされています。よって、遅番最終日の終業時刻(10月4日午前0時30分)から次の勤務の始業時刻(10月6日午前0時)までの間に、10月5日の午前0時から同日午後12時までの暦日単位の継続24時間の休息時間が含まれていますので、10月5日が「休日」となります。

したがって、遅番3日目の終業後の中番勤務(10月4日午前8時から午後4時30分までの勤務)は、休日の労働ではなく、7時間30分の休憩時間をはさんだ”10月3日午後4時から10月4日午前0時30分までの遅番勤務”の時間外労働(前の勤務の延長)となりますので、25%増の割増賃金を支払えばよいことになります。
3交替24時間操業
3交替制におけるシフト外勤務の取扱い

 

Q6: 管理監督者であっても、深夜割増は支払わなければならないと聞きました。その場合、役職手当も、深夜労働割増賃金を支払う際の算定の基礎となる賃金に含めなければならないでしょうか?

A6:労働基準法第41条第2号は、管理および監督的地位にある者(以下「管理監督者」という)については、労働基準法の労働時間および休憩、休日の規定を適用除外することとしています。したがって、ここでいう管理監督者に対しては、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務はありません。しかし、深夜業の規定については、適用が除外されていないとされています(昭63.3.14基発150号)ので、ご指摘のように深夜業の割増賃金については管理監督者にも支払う必要があります。 (※ただし、労基法成立時点では、深夜割増を対象外にしたことを証明する記載はないという見解もあるようです。)

さて、深夜割増賃金を算定するに当たっては、原則として、割増賃金の算定基礎となる賃金(以下「算定基礎賃金」という)に役職手当も含めなければなりません。何故なら、割増賃金の算定基礎賃金から除くことができる賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金のみに限定されているからです。

役職手当が時間外手当に対する部分と職責に対する部分に分けられ、その区分が明らかな場合には、役職手当のうち職責に対して支払われる部分を除く時間外手当に相当する額については、割増賃金の算定基礎賃金から除外することができますが、区分されていない場合には、その全額を深夜業割増賃金の算定基礎賃金に含めなければなりません。

ただし、管理監督者に対して支給されている賃金に、深夜割増賃金が含まれていることが明らかな場合には、その額の範囲内で、深夜業に対する割増賃金の支払いを行わなくても差し支えありません。この点については行政解釈でも、「労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない」(昭63.3.14基発150号)としています。

 

Q7: 1ヶ月単位変形労働時間制を導入した事業場ですが、6月(1日〜末日)にカレンダーどおりに出勤させると、公休日は8日で、所定労働時間が1ヶ月の総枠を超えてしまいます。この場合、時間外割増の支払いが必要と聞きましたが、本当なのでしょうか?

A7: 変形労働時間制を採用すると、1日8時間、1週40時間を超えた労働時間の設定が可能になりますが、変形期間全体の所定労働時間を次の算式の範囲内に収める必要があります。
法定労働時間総枠=40×変形期間の暦日数÷7
6月は暦日では30日ですから、総枠は、40×30÷7=171.42/・・時間
6月のカレンダーでは土、日は8日ですから、残りの22日に8時間勤務させると、労働時間の合計は8×22=176時間になります。残業がゼロでも、法定労働時間の総枠を超えるので、時間外割増の支払いが必要になります。
1週平均40時間の総枠を守って働かせても、「曜日の巡りおよび労働日の設定」によって割増の支払いを要するケースが生じるのは、経営者にとって納得がいかないかもしれません。フレックスタイム制では、この不合理を回避するため、特例が設けられています。

フレックスタイム制の変形期間は、最長1ヶ月ですが、時間外労働が発生したか否かを判定する場合、5週間(35日)を1単位としてみることができます(平9・3・31基発第228号)。変形期間における最初の4週間に特定期間1週間をプラスした期間を、判定期間とします。 6月の場合、最初の4週間(1日〜28日)と特定期間(29日〜7月5日)を合わせ、5週間平均で週40時間の枠内に収まっていれば、時間外労働は発生しなかったとして処理することになるのです。

しかし、この特例は「フレックスタイム制においては、始業・終業時刻が労働者の自主的な選択にゆだねられていることから認められているものであり、他の変形労働時間制には適用される余地がない」(前掲通達)と明記されています。(※1ヶ月単位の変形労働時間制にもフレックスのような考えを適用できるとした本などもあるようですが、行政判断では、フレックス以外では適用できないことになります)

1ヶ月単位変形労働時間制では特例が認められないので、時間外労働の発生を避けるためには、カレンダーより1日多く休日を設けるか、月末の1日(または複数日)等の労働時間を調整する必要があります。