▼通勤災害(通勤途上)の認定ついて |
Q1:通勤災害の認定は、どのような基準で行われますか?
Q2:直行直帰の営業社員が自宅から訪問先に向かう途中や、訪問先から帰宅する途中に起こった事故は、通勤災害になりますか?
Q3:当社では、通勤について公共交通機関を使うこととしています。電車の定期券を支給している社員が、実はバイクで通勤しており、その際に事故を起こしました。会社の届出と異なる手段・経路での通勤になりますが、これは通勤災害になるのですか?
Q4:当社では、通勤は公共交通機関での通勤のみ認め、その通勤経路を事前に届けさせています。次のような場合には、通勤災害となるのでしょうか。
①届け出と違う経路で通勤していた従業員が交通事故に遭ってケース
②電車の定期券を支給している社員が、実はバイクで通勤しており、その際に事故を起こしたケース
会社としては、このような不届きな社員に対しては、通勤災害とは無関係の個人的事故として取り扱いたいのですが・・・。
Q5:私は、東京に本社がある会社の福岡支社に単身赴任中ですが、月に1〜2回程度、週末に家族の住む東京の自宅へ帰っています。ところで、金曜日に赴任先での業務を終えた後、一旦赴任先の社宅へ戻り、翌土曜の朝、自宅へ帰る途中、交通事故に遭い負傷しました。これは、どのような取り扱いになるのでしょうか
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Q6:当社は、ガス会社なのですが、突発事故が起きたときなど、社員に休日に出勤を要請する場合があります。この出勤途上の事故は通勤災害になりますか?
Q7:終業後に開催された社内懇親会に参加してから帰宅する途中の事故は通勤災害になりますか?
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Q1:通勤災害の認定は、どのような基準で行われますか? |
A1:通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡をいいます(労災保険法7条1項2号)。
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路および方法により行うことであり、業務の性質を有するものは除かれます(労災保険法7条2項)。
労働者が、上記の移動の経路を逸脱し、または上記の移動を中断した場合は、その逸脱または中断の間およびその後の移動は、通勤に該当しません。ただし、その逸脱または中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの[※]をやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、その逸脱または中断の間を除き、通勤に該当します(労災保険法7条3項)。
以下、通達(昭48.11.22 基発644、平18.3.31 基発0331042等)に基づき、労災保険法7条1項2号および2項の言葉の定義について説明します。
◆「通勤による」 |
・・・通勤と災害との間に相当因果関係のあること、つまり、災害が通勤に通常伴う危険が具体化したものであること |
◆「就業に関し」 |
・・・往復行為が業務に就くためまたは業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨である |
◆「住居」 |
・・・労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところ |
◆「合理的な経路
および方法」 |
・・・住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路および手段等をいう |
◆「逸脱」「中断」 |
・・・通勤の途中において就業または通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう |
[※]日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの
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① 日用品の購入その他これに準ずる行為
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② 職業訓練、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらの準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
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③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
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④ 病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
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⑤ 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反覆して行われるものに限る)
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Q2:直行直帰の営業社員が自宅から訪問先に向かう途中や、訪問先から帰宅する途中に起こった事故は、通勤災害になりますか? |
A2:営業など外勤業務について、通達では「外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数ヵ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる」とされています(平18.3.31 基発0331042)。
したがって、このような場合は、自宅から最初の訪問先までの移動が「通勤」、その後、営業活動を行っている間については「業務」となり、最後の訪問先から自宅までの移動を「通勤」として取り扱うこととなります。
一方、上記のような特定の担当区域をもたない”飛び込み営業”などの外勤業務や、通常担当している区域以外の場所に出張を指示された場合は、通常の出張と同様、出張先へ向かう時点から、出張先から帰宅する間は、会社の支配下にあると考えられ、その間に業務に起因して起こった災害は、原則として業務災害となります。 |
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Q3:当社では、通勤について公共交通機関を使うこととしています。電車の定期券を支給している社員が、実はバイクで通勤しており、その際に事故を起こしました。会社の届出と異なる手段・経路での通勤になりますが、これは通勤災害になるのですか? |
A3:通勤災害と認定されるためには、「合理的な経路を及び方法」による移動でなければなりません(労災保険法7条2項)。
通達は、上記の「合理的な経路を及び方法」について、「鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認めらます。しかし、例えば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合、合理的な方法と認められません。
なお、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理的を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である」と述べています(平18.3.31 基発0331042)。
電車の定期券が支給されている場合は、使用者に対して電車通勤の届けをしているものと考えられるが、その場合においても、バイクを本来の用法に従って使用して通勤することは、通常用いられる交通方法であり、一般的に合理的な方法であると考えられる。したがって、電車の定期券を支給されている労働者がバイクで通勤した際に起きた災害も、原則として通勤災害に当たると考えられます。 |
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Q4:当社では、通勤は公共交通機関での通勤のみ認め、その通勤経路を事前に届けさせています。次のような場合には、通勤災害となるのでしょうか。
①届け出と違う経路で通勤していた従業員が交通事故に遭ってケース
②電車の定期券を支給している社員が、実はバイクで通勤しており、その際に事故を起こしたケース
会社としては、このような不届きな社員に対しては、通勤災害とは無関係の個人的事故として取り扱いたいのですが・・・。 |
A4:これらケースのように、通勤経路を事前に届けさせる会社や、マイカー通勤を禁止している会社は多くあるでしょう。
労災法で給付対象となる通勤とは「労働者が就業に関し住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」と定めています。
①のケースにおける問題点は「合理的な経路及び方法」に関する部分となりますが、これは会社への届出とは関係なく一般に通常用いられる経路や方法であれば、通勤災害と認められるのです。会社へ届け出た経路以外は通勤災害として認められないのだと思っておられ、実際部下にそのように指導している方もよくおられますが、これは誤解なのです。
また、 ②のケースのように、バイク通勤を禁止しているのにバイクで通勤し、途中で事故った場合でも労災補償が受けられます。なお、もちろん無免許や酒酔い状態であれば、給付制限はかかります。
届出と違う経路や手段なので会社が労災の手続きをしてくれないという話を聞きますが、大きなトラブルになる可能性があります。会社としては「会社の規律を守らない奴に何で!」と思う気持ちもあるでしょうが、労災手続きをしないで放置したままではまずいことになります。労災の時効と民法の時効は異なるので、後になって労災でもらえたはずの額を請求されたりする恐れもあります。 |
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Q5:
私は、東京に本社がある会社の福岡支社に単身赴任中ですが、月に1〜2回程度、週末に家族の住む東京の自宅へ帰っています。ところで、金曜日に赴任先での業務を終えた後、一旦赴任先の社宅へ戻り、翌土曜の朝、自宅へ帰る途中、交通事故に遭い負傷しました。これは、どのような取り扱いになるのでしょうか? |
A5:平成18年4月1日施行の労災保険法改正により、①住居と就業との場所との間の往復に加えて、②複数就業者の就業の場所から他の就業の場所への移動、③単身赴任の赴任先住居と帰省先住居間の移動が通勤災害の対象になっております。すなわち、ご質問のケースは、③に該当するので、通勤災害と認められるでしょう。
上記③の単身赴任者の住居間移動は、一定のやむを得ない事情により、
また、通達は、「労災保険法第7条第2項第3号の通勤における赴任先住居とは・・労働者が日常生活の用に供している家族等の場所で本人の就業のための拠点となるところを指すものです。また、同号の通勤における帰省先住居についても、当該帰省先住居への移動に反復・継続性が認められることが必要である」と述べているので、この点にも留意が必要です(平18.3.31 基発0331042 編注:第3680号−06.6.23 143ページ)。 |
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Q6:当社は、ガス会社なのですが、突発事故が起きたときなど、社員に休日に出勤を要請する場合があります。この出勤途上の事故は通勤災害になりますか? |
A6:通勤災害における「通勤」とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復等の移動を、合理的な経路および方法により行うことであり、業務の性質を有するものは除かれます(労災保険法7条2項)。
通常の出勤ではなく、突発事故に対応するために出勤する場合は、住居を出発してから帰宅するまで事業主の支配下にあると考えられるから、この間の往復により被災した場合は、原則として業務災害に当たり、通勤災害ではありません。
通達(昭24.1.19 基収3375)は、休日に、鉄道の保線工夫が、自己の担当する鉄道沿線に突然事故があったため、自宅等から使用者の呼び出しを受けて現場に駆け付ける途上は、業務遂行中であると解した。この通達では、使用者の呼び出しがある場合はもちろん、予め出勤を命ぜられている場合には、休日であっても、自宅から現場までの途上は業務遂行中であるとも述べています。
また、通常の出勤時刻に突発事故のため出勤督励を受けて現場へ向かう途上の事故について、「出勤督励を受けて急遽現場へ赴くため、悪天候を冒し危険な道順をとったため被災したものであるから、本件は、通常の出勤途上の事故とは事情が異なり、業務上と解せられる」とする通達もあります(昭30.11.22 基災収917)。 |
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Q7:終業後に開催された社内懇親会に参加してから帰宅する途中の事故は通勤災害になりますか? |
A7:通勤災害と認められるためには、「就業に関し」といえなければならないから、移動行為が業務に就くためまたは業務を終えたことにより行われるものであること、つまり、移動行為が業務と密接な関連をもって行われることを要します。
通達は、「業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めても差し支えない」としています(平18.3.31 基発0331042)
具体的には、業務終了後、事業場施設内で労働組合の用務を約1時間25分行った後、帰宅する途中の災害については、組合用務に要した時間は、就業との関連性を失わせると認められるほど長時間とはいえず通勤災害であるとされた例(昭49.3.4 基収317)があります。
一方、業務終了後、事業場施設内でサークル活動に2時間50分従事した後の帰宅途中の災害については、2時間50分という時間は就業と帰宅との直接的関連性を失わせると認められるほど長時間であるとして、通勤災害とは認められないとされています(昭49.9.26 基収2023)。
終業後の事業場内での会合などに出席した後の帰宅中に起こった事故などが通勤災害と認められるには、当該会合は2時間程度が目安といわれているようです。 |
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