人事労務担当者のための労務相談Q&A



▼労災(適用)について

Q1: 当社では、来年から採用内定者研修を実施する予定です。また、今後はインターンシップの学生を積極的に受け入れ、その中から優秀な学生を採用することも考えています。このような場合に、研修、インターンシップにおける事故や当社への行き帰り途中での事故に対してどのような備えをしておく必要があるのでしょうか?

Q2: 当社では中国への進出を考えています。まずは中国に会社を立ち上げ、現地で数名の社員を雇用すると共に、当社の社員1名を現地に派遣する予定です。3年間の派遣を予定しており、当社では在籍出向という形を採ります。業務上の事故が発生した場合の対応がもっとも心配です。そもそも日本の労災保険は適用されるのでしょうか?

Q3: 市場調査と事務所の視察のために海外出張することになりました。期間は1週間の予定ですが、海外派遣者の特別加入の手続をする必要がありますか?

 

Q1: 当社では、来年から採用内定者研修を実施する予定です。また、今後はインターンシップの学生を積極的に受け入れ、その中から優秀な学生を採用することも考えています。このような場合に、研修、インターンシップにおける事故や当社への行き帰り途中での事故に対してどのような備えをしておく必要があるのでしょうか?

A1: 入社前の採用内定者に対して、業務の知識を習得させること等を目的として研修を行うことがあります。
また、「インターンシップ」とは、学生が実務経験を積み、職業意識を高めるための企業内研修のことです。
研修中の事故に対して、行政解釈は、研修生が労基法9条の「労働者」に当たるかどうかという観点から、いくつかの判断を示しています(労働者と認めた例として、造船会社で実習中の商船学校の生徒:昭23.1.15基発49号、否定された例として、工場で実習中に工学部学生:昭57.2.19基発121)。

行政解釈を要約すれば、研修中に労災保険の適用が認められるのは、@研修中に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最賃法の規定を上回っていること、A実際の研修内容が、本来業務の遂行を含み、B賃金が使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであること。の3つを事実があることが挙げられていますが、実際は、実態から判断されるものと考えます。
例えば、本格的に業務にあたる就労をさせなくとも企業に出社して実際に労働を行わせ出社の義務を課したり、遅刻、早退に制裁を課したりするようであれば指揮命令関係にあり、一時的な労働を行う関係(一種の短期アルバイト)に当たると考えられます。

しかし、賃金を支払うほどの労働の実体がなく、単に職場見学や職場体験程度であれば、アルバイト以下であると考えられ、労働関係にはなく、給与支払の必要もないと考えられます。
入社前研修でも、労災保険の適用には慎重な厚生労働省の態度からすると、インターンシップではより一層労災保険の適用はないと判断される可能性が高まります。
研修参加・帰宅途上の事故は別として、研修施設などの企業内の事故に対しては、労災保険の適用の有無にかかわらず、企業が研修生に対し安全配慮義務を負うことは避けられず、事業主に事故への過失が認められれば、研修生は企業に対して損害賠償の請求をすることができます。

研修を実施する企業としては、事故の可能性(リスク)を考慮して、どの程度の研修を実施すべきかを決定しなければなりません。完全に就労中の事故へのリスクを回避したのであれば、研修をしないか、座学の一般研修程度にとどめるべきです。しかし、研修の効果を狙って、より実施体験をさせたいのあれば、積極的にアルバイト労働契約を結び、給与を支払って、労災保険の適用を求め、さらには上積補償(民間の保険による)の対応をなすべきでしょう。

また、入社前研修や学校が関与していない場合は、企業等または学生個人が一般の傷害保険等で個別に措置を講ずる方法があります。学校の正課または課外活動としての実習の場合には、学生教育研究災害傷害保険(任意加入)の適用対象となります。
いずれにせよ、万一の事故の場合の学生個人や学校、受入先企業等の負担をできる限る軽減するため、保険への加入等リスクへの備えを十分検討することが必要です。

 

Q2: 当社では中国への進出を考えています。まずは中国に会社を立ち上げ、現地で数名の社員を雇用すると共に、当社の社員1名を現地に派遣する予定です。3年間の派遣を予定しており、当社では在籍出向という形を採ります。業務上の事故が発生した場合の対応がもっとも心配です。そもそも日本の労災保険は適用されるのでしょうか?

A2: そもそも労災保険は、国内にある事業所に適用され、そこに就労する労働者が給付の対象となる制度です。そのため、海外の事業場で就労する労働者は日本の労災保険制度は適用されず、派遣先国の災害補償制度の対象となります。しかし、その適用範囲や給付内容は必ずしも十分であるとは言えないことから、海外派遣労働者が労災給付を受けられるように「海外派遣者の特別加入制度」が用意されています。

この特別加入を行うことで、原則として国内労働者と同様の労災保険給付を受けることができます。ただし、給付額の算定基礎等に用いる給付基礎日額は、特別加入対象者の取得水準に見合った適正額を申請し、都道府県労働局長が承認した額となります。これに合わせて保険料率もこの給付算定基礎日額に保険料率を乗じたものとなります。保険料率は業種に関わらず1000分の4(平成22年度の料率。変更する場合あり)と一律で定められています。なお、中小事業主等が特別加入を申請する場合には、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していることが要件となっていますが、この海外派遣労働者の特別加入にはこの要件が定められていません。

 

Q3: 市場調査と事務所の視察のために海外出張することになりました。期間は1週間の予定ですが、海外派遣者の特別加入の手続をする必要がありますか?

A3: 今回のケースでは、労災の特別加入を行なう必要はないでしょう。海外派遣者の特別加入では、「海外派遣」と「海外出張」が区分されています。定義は以下のようになっていますが、どちらに当たるかは勤務の実態によって総合的に判断されます。
 ①海外派遣・・・海外の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮に従って勤務する
 ②海外出張・・・国内の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮に従って勤務する
今回は、目的が市場調査と事務所の視察とされており、原則として、特別加入を行なわなくとも国内で出張を行なった場合と同様の労災が適用できると考えられます。